三たび、プロヴァンスへ
2009年 9月
私がヨーロッパに心を惹かれるのは、秋の気配を感じる頃にやって来るのですが
今回は、私の主治医で内科の先生のお誘いで「プロヴァンスの広大なラベンダー畑を
見るのも良し、村々のマルシェ歩きも良し、現地でゆっくりと、絵を描くのも良し」
そんな願っても無いお誘いに、7月中旬、有難くお供させて頂く事に成りました。 
一行は、先生姉妹と、先生のご学友であられる皮膚科の先生と、女性4人の旅。
行き先は、先生方の10年来通い慣れたプロヴァンスのヴォークリュ(Vaucluse)
県内の、リル・シュー・ラ・ソルグ(L'lsle-sur-la-Sorgue)とソー村
(Sault)です。
マルセイユからリル・シュー・ラ・ソルグまでは、先生のご友人のお出迎えの車で2時間程走った所に有り、リル・シュー・ラ・ソルグのホテルに荷物を置き、早速マルシェ(朝市)見物。リル・シュー・ラ・ソルグはソルグ川の支流に囲まれた島(中洲)に有る町で、運河沿いを歩いていると、古い水車が現在も稼働して居り、川の自然の 力を、文明の発達した現在も大切に利用していて、地球に優しい生活が、ここに見る 事が出来ました。
この町は、ベトナム戦争時に難民を受け入れた為、現在では、ベト ナム料理店が多く、私達もその中の一つで、川沿いのレストランでランチを取る事にしました。澄み切った川の流れと、小鳥たちの可愛い歌声と、プロヴァンス特有の蝉の声。特有と云うのは、蝉は南仏にしか生息しない昆虫だそうで、蝉の形の石鹸、蝉の形の陶器の 壁掛け、南仏の土産物屋の軒先には蝉のグッズがいっぱい。

それはさて置き、飛行機を降りて最初の昼食がベトナム料理。結構美味しく頂きました。私の海外旅行のモットーの一つに、その国の料理以外は食さないと、決めていたのですが、どうも今回の旅は、例外の兆しが!何故ならば、先生のトランクの中には、ソー村にお住まいの10年来の親日家のご友人方の為にと、味噌汁や御寿司の材料を忍ばせている事を 知ったからです。さて、リル・シュー・ラ・ソルグの町は、わたしの知っているプロヴァンスの石畳の階段や、石畳の坂道ばかりの町とは異なり、平坦な小さな町で、川沿いには、お洒落な小物などを売るお店が並んでいて、ウインドーショッピングを充分に楽しむ事が出来るところでした。

リル・シュー・ラ・ソルグの川を30分ほど上った所に、湧き水の源流である渓谷フォンテン・ドゥ・ヴォークリューズ(Fontaine de Vaucluse)と云う、透明度の深い、美しい泉に辿り着きます。巨大な岩山の洞窟の奥からは、大量の水が湧き出るのが見えていたそうなのですが、残念ながら、ここも温暖化の影響で涸れてきている様です。それにしても凄い水量には圧巻でした。又、この水を利用して、手漉きの紙を作っている水車小屋を見学する事もできました。
リル・シュー・ラ・ソルグで二日間滞在後、再び先生のご友人の車でソー村へと移動する途中、ゴルドの美しい町が見下ろせる高台で一休み。 先回の旅も同じ場所から眺めたゴルドの村ですが、残念ながら、私は一度もこの村に、足を踏み入れた事はありません。ゴルドの古城は、16世紀のルネッサンス様式の城で、リュヴェロン地方で最も観光化されている村だそうです。 然しながら、遠くから眺めるゴルドの村は、誠に絶景です。ソー村に近付くに従って、野生のラヴェンダー、チコリ、レースフラワーなどが、其処ここに咲いていて、私の目を喜びと感動で、いっぱいにしてくれました。
そして旅の目的の一つになっていた、ムール(Murs)の蜂蜜屋さんを訪ね、瓶詰めの蜂蜜を日本へと、先生方の手馴れた手際の良さで、宅配を済ませ、目的のひと仕事が済んだ気持ちになったところで、 蜂蜜屋さんの庭を拝見。 ちょっぴり汚れたラブラドールと猫と鶏と色鮮やかに咲く花が、日差しの中で、ゆったりのんびりとこれぞ正しくプロヴァンスの田舎風景。 蜜蝋で作った蝋燭は、蛙、蜂、熊と色々な可愛らしい形をしていて、2ユーロのお値段。この時期で日本円にして270円位。買ってくれば良かったと、ちょっぴり後悔しています。
再び、ソー村に向かって車を走らせると、いよいよ広大なラヴェンダー畑が現れ、何処を見ても紫、紫、紫・・・・・・。 7月のこの時期に訪れた事のない私には、改めて、プロヴァンスの大地の美しさを、再認識する事と成りました。
 ソー村は、はっきり言って何も無い。道端には看板も無ければ、イルミネーションなど一切無い、ひたすら乾燥した大地には、ラヴェンダー畑と麦畑が広がっている、美しくのどかな村です。 トラクターでラヴェンダーの刈り入れをしている側を通る時は、特に咽かえる様な香りで、常に村全体が、ラヴェンダーの香りに包まれている感じがしました。畑の周りには、可憐なハーブの花が自然に咲き乱れ、歩く足元に葉が触れただけでハーブの香りが漂い、手に取ると、それぞれの花、葉、茎から放たれる芳醇な香りに 、改めてフランスは「香りの国」だと、実感する事が出来ました。
ソー村では、先生方が定宿にして居られるペンション(B&B)にて連泊しました。オーナーは橋本さんと仰る、日本の方で、奥様はフランスの方です。
旅行記を兼ねて、橋本さんのB&Bのご案内を致します。

橋本さんのB&B
MAISON DU BON ACCUEIL
http://monsite.wanadoo.fr/MaisonDuBonAccueil/
橋本さんのB&B MAISON DU BON ACCUEILは、3000坪の敷地の中に、こじんまりと佇む可愛いペンションで、朝夕は奥様のイザベルさんお手製のフランス料理。 朝は庭で収穫した、さくらんぼや杏と、ラヴェンダーから採れた蜂蜜などと、コーヒーで軽く。夕食は、イザベルさんがお母様から伝えられたと云う、フランスの家庭料理で、無駄なく工夫された、決して豪華では無いのだけれど、心の篭もったお料理でした。そして、極め付きは滞在最後の夜の先生作の、ちらし寿司、お蕎麦、味噌汁でした。 流石に親日家の方々の集まり、日本食を楽しんで頂けて、先生方も大満足の晩餐会でした。
ペンションの門を一歩出ると、そこは一面のラヴェンダー畑。道端には、野生のチコリ、コクリコ、レースフラワー、アザミなどが咲き乱れ、摘んだラヴェンダーは、先生の妹さんに習いながら、ポプリを作ってみたり、小花をスケッチしたりと、連泊の良さをフルに活用させて頂きました。ペンションの横の道では、ツール・ド・フランスの自転車の通り道に成っており、私達が宿泊していた間も、ツール・ド・フランスと同じコースで、自転車レースが行われ 、朝9時から午後3時までは通行止めとなり、ペンションの中で缶詰状態。9千台もの自転車の応援に、道端に出て、声を嗄らし、半日を送ったりと、面白い体験をしました。 ツール・ド・フランスは、私たちの帰国した二日後にソー村を通過する事になっていた為、既に橋本さんのペンションは、オランダのカメラマンで、全室が予約になっていたようです。レースのゴールはヴァントゥー山(MontVentoux)と云う標高1909Mの石灰岩で覆われた山で、遠くから眺めても、自転車で上るには、尋常ではない高い山でした。
ペンションのお隣には、先生の古いご友人で、陶芸家のJean Pierre Thomas氏、先生曰く「隣のトマさん」が住んで居られ、親日家であり、益子焼の本場、茨城県の笠間にも滞在して居られたとか。土はともあれ、ソー村で益子焼の作家活動をされて居り、日本でも何度か個展をなさった経歴の方でした。外壁には、益子焼の大皿が飾られていました。
マルシェ(朝市)はあちらの村、こちらの村と曜日を変えて市が立つので、ペンションの橋本さんのご好意で、毎日、市巡りをする事ができました。今回の旅の私たちの一番の目的であるマルシェ歩きは、兎に角、何を見ても可愛くお洒落で、そして美味しそうな物も沢山ありました。アプト(APT)の村はプロヴァンスでは規模の大きな市が立つことで知られているようです。ここでは「フリュイ・コンフィ」と云う、果物を丸ごと砂糖漬けしたお菓子で有名です。以前ツァーで、南仏に来た時に買い求め、余りの甘さに、甘党の私も今回は、横目で通り過ぎる事にしました。
アプトの北には、アプトよりも小さいサン・サチュナン・レ・アプト(Saint Saturnin-les APT)と云う小さな村があり、昔は水車でオリーブを絞って、オイルを作っていたそうです。今でも水車が残っていて、山の上には、廃墟となった城もあり、中々魅力的な所でした。マルシェの喧騒を離れ、一歩裏道に足を踏み入れると、何世紀も前の石造りの家並みが、静かに時を刻み、村人の生活を支えている様子が伺われ、そして物の大切さを感じさせてくれました。何気なく飾っているのであろう植木鉢の夾竹桃の白と、ゼラニュームの鮮やかな赤が、南仏の光と風と青い扉とが、一体化して、借家の入り口も、閉ざされた民家の軒下の葡萄棚も、そして農夫の風見鶏までも、何処を眺めても絵にしたくなる様な風景でした。家々の窓や扉の青く塗られているのは、昔から魔除けとして塗られているそうです。
流石にラヴェンダーに関する品物が豊富で、ラヴェンダーの石鹸やポプリ、ラヴェンダーの蜂蜜、ラヴェンダーのデザインのコットンなど。野菜も豊富で、色が鮮やかで並べ方さえも、お洒落に見えてしまうのが不思議です。 日本では珍しいアーティチョーク、白い茄子、赤いインゲン豆、黄色いトマト、ブラックベリー、ラズベリー等など、そして、フランス料理には欠かす事の出来ないバジルの束売り。エスカルゴ、色々なチーズとサラミ、生ハム。 黒胡椒やローズマリーで、周りをびっしりと包み固めたサラミを、薄く切って食した時の、美味しかった事。 プロヴァンス独特のプロヴァンス・コットン。 プロヴァンス・コットンの袋に詰め込んで並べられているニッキ、八角、グローブ、コリアンダー、ナツメグ等の香辛料。酢漬けのオリーブ、そして、籠の中には、可愛い目をした鶏たち。無論、食料用です。私たち、旅行者がマルシェで買い物をするには、特に美味しそうに見える物には、かなりの制限があります。せめてもと思い、沢山カメラに収めてきました。
ペンションから北へ、ソー村の外れのラヴェンダー工場を見学。ここではラベンダーの他にも、矢車草から抽出したエッセンスなどもあり、車を降りると、咽返る様な香りが鼻をつき、ラヴェンダーの香りで、リラックスする等と云うのは程遠く、強い香りで、私たちを迎えてくれました。 それでももう一度、店の棚に並べられた、沢山のオイルのテスターを、全部試嗅して見たいものだと思っています。モンブラン・レ・バン(Montbrun-les-Bains)は、鉱泉の温泉が出る所で、アロマ・テラピーの大きな施設があり、既に事を把握なさって居られる先生は、南仏へ出発する以前に予約をして下さっており、私も水着を持参で、体験をしてきました。
それはそれは、私は日本でも、滅多に行く事のないアロマ・テラピーですから、緊張の連続です。一人一人別々に行程時間が組まれているので、さあ大変。 サウナに入った後は、美しいマドモアゼルの案内で、ジャグジーへ。がらんとした部屋には、ラヴェンダーの香りが漂い、お立ち台の様な高台には、ジャグジーの浴槽が置かれ、マドモアゼルに促され、浴槽に入ったのは良いのですが、其処はヨーロッパ。
全ての物が大きく、浴槽もやたらと大きくできているのです。両側の手すりに捕まり、足は漸く足止めのパイプに届く始末。 恐らくここで、手すりから手を放すと、ずるずると湯の中に沈んで行きそうな!そして、ジャグジーの勢いは、見当違いな箇所に当たっているのではないかしら!20分間のタイマーが早く止まってくれないかしら!マドモアゼルは、ここに居る私を、忘れてしまったのではないかしら! などと考えながら一人浴槽の中で踏ん張っていた私は、リラックスするどころではなかったのです。さて、次に行うのは、強力シャワーを、頭から浴びると云うもので、シャワー室から出てこられた先生方の、ずぶ濡れ姿を拝見した私は、しり込みをしてしまい、結局、パスする事にし、最後はマッサージ。薄暗く、眠気を誘う音楽に、これ又、可愛い、マドモアゼルの優しいマッサージが、何時しか、うとうとと私を夢の世界へ誘ってくれました。これぞ、正しくリラクゼーションでした。
又、別の日には、温泉の有るモンブラン・レ・バンより北東へ、足を伸ばし、今回のツール・ド・フランスのゴール地点であったヴァントゥー山の近くのブラント(Brantes)と云う山の天辺の陶芸家をお訪ねしました。ご主人が土を焼き、それに奥様が絵付けをなさっており、温か味のある斬新な形と色彩の作品の数々でした。ブラントの帰りには、サヴォリアン(Savoillar)と云う山の小さな村に嫁いで、パン屋さんを営んでいる日本の女性にお目にかかり、フランスの山奥の小さな村で、異国の女性が家庭を持ち、奮闘している事の勇気に、驚かされました 。二人の可愛い、日本語の上手なお嬢さんと、優しそうな、ご主人とお義父さんに囲まれて、明るく働かれていました。
今回の旅は、時間的、精神的に主治医の先生方のお陰で、この上ない贅沢な旅をする事ができました。ツアーでは出来ない事、ツアーでは行く事の出来ない所、ゆとりのある時間の中で、花を摘んだり、スケッチをしたり、自転車レースの応援、アロマテラピー、そして、あちらこちらと、マルシェ歩き。楽しかった思い出がいっぱいです。先生方初め、この旅でお世話になった方々に、心より感謝申し上げて、今回の旅の報告を、終わりと致します。
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