未読山脈の片隅より2011-April-



題名:末裔
作者:絲山秋子
発行:講談社 2011/2/17 第1刷発行
ISBN-10:4062167379
ISBN-13:978-4062167376
価格:¥1680

ミステリならどんでがえしがある。
それがカタルシスで、お決まりで、それをお楽しみで読むことが前提だ。
ならば普通の大衆小説や、純文学はどうなんだろう。もちろん、こう読ませたい、ああ読ませたいという作者の思惑があっても、ミスリードというか、読み手の勝手な思い入れで、歪曲して読み終わってしまうってはあると思う。絶対ハッピーエンドで終わるはずない!、そういう思い込みで読んだのに、あああ、この結末はナニ??。いやいや、はかない希望への前向きな期待であっても、その先には更なる絶望もあり得る???、という深読みを強いているんぢゃないか、絲山秋子わ。そういう書き手なんだと思うのな。

極私的なことながら、この物語を読んでいて、私の父が亡くなる前、しきりに親戚の近況や、近所付き合いについて気にしていたことを思い出した。読み手の私も、齢が50に近づくにつれ、日々生活することに感けて忘れてしまっていたこと、”ルーツ”というか根っこを、ふとしたことで思い起こすというか、なんか遠くへ来ちまっているな、と感じたりすることがある。疎遠になることが、不義理や、裏切りのように感じる年代。人生も半ばを過ぎて黄昏のカウントダウンで、なにもかも見失う一瞬、そんなエアポケットかもしれない。

初っ端、合わなくなる自宅の鍵穴の謎、謎解き否定の不条理で、まずは物語が読み手をふるい落とす。それなりに一生懸命に生きてきた拠り所からの強烈な拒否反応、拒否の連鎖から始まるストーリは、読み始め不安のみをかき立て、物語の結末の絶望をことさら匂わす。昭和世代の核家族的なこだわり、そして、ともすれば美化される厳格な家長制や、年長者への尊厳の気配りなど、いまでは崩壊してしまったシキタリを改めて見直し、再評価するといった作業みたいなの?、戸惑いながら着手した作者の想いみたいなのを感じた気がする。
中年を過ぎて、しがらみや絆なんてえのは、年を重ねるごとに苦痛になるだけじゃあないのか?、だから死ぬことが、介護や病気などから解放され、楽になるという諦めの気持ちを”天国”や”極楽”などというパラダイスに例えるのかもしれない。しかし、「生きてる」ってことはそんなにつらいだけなのか?とかね。
立ち止まることを恐れてただただ前だけ向いて生きてきた日々、定年間際で突然エネルギを失い、エンストしてしまった自分が(すでに)ポンコツでないのか?と向き合うことは、哀しさや虚しさだけじゃあないはずだよ、と諭してくれてるような、そんな気がしたのな。(2011/4/10記)




題名:ポトスライムの舟
作者:津村記久子
発行:講談社 2009/2/2 第1刷発行
ISBN-10:4062152878
ISBN-13:978-4062152877
価格:¥1365

なんのために働くのか、なんのために生きるのか、さらにアラフォー世代の女性にとってのは、「女の幸せってなんなの?」という社会の決めつけというか偏見との戦いもある。玉の輿で子供を産んで、親に孫の顔を見せて喜ばせる、そういうお決まり押しつけの幸せを選ばないとどういうことになるのか?。「身につまされる」ではすまされない静かな絶望みたいなのがある。
ならばといっても、仕事への生きがいを見出す前に立ちはだかるのは理不尽なるパワーハラスメント。立ち止まれば、浴びせかけられるのは必至の「結婚」「出産」といった定番ワードを逃れながら、あえて定職以外にアルバイトを掛け持ちして自分を追い詰めていくヒロイン。それでも結果はどんずまり、なにかにすがりつくかのように自らに課すのが「世界一周」クルージング(定価163万也)の旅費を貯めること。年収と同じ金額の重みをかみしめながら、滑稽なる(遅々として進まぬ)節制ライフ、周囲のしがらみの中でもがき苦しむ姿を、淡々と、でも細やかに描いてるのなー。
表面上、まさにこれが日常!っていうような平平凡凡としたことなかれな生活、波風たたさぬ日々の「働けど働けど我が暮らし楽にならざりぢっと手を見る」なワーキングプアライフ。「ささやかな幸せ」すら深く深ーく考えさせられる物語。(2011/4/10読了)

【収録作品】(初出「群像」)
「ポトスライムの舟」2008/11月号
「十二月の窓辺」2007/2月号




題名:統ばる島
作者:池上永一
発行:講談社 2011/3/14 第1刷発行
ISBN-10:9784591123928
ISBN-13:978-4591123928
価格:¥1575

まさに今の時代から発信されているなあ〜と感じるおとぎ話。ケータイもあるし、ボーイズアンドガールズはイマドキのトレンドで生きている。でも、舞台が日本の最西端に位置する南の離島群、そこで語られる8編の物語はフツーとは明らかに線引きされた独特な雰囲気をまとい、読み手に提示されている。
本土からは遠く離れて、たぶん太陽から降り注ぐエネルギーや潮の香り、風や空気も、全然違う、日本なのに日本らしからぬ世界のお話し。笑っていいのか泣いていいのか、なんだかそこはかと滑稽な悲喜劇というか、あふれんばかりに豊かな感情がストーリーに満ちている。

【収録作品】八重山諸島ひとつひとつに物語を配した連作集。
「竹富島タキドゥン」衝き動かされる若人が、踊る神の祭り<種子取祭>
「波照間島パティローマ」波間の向こうにあるという幻の島。本当の楽園はどこにあるの?
「小浜島クモー」先祖を奉る”洗骨”がつないだ家族の絆
「新城島パナリ」人魚をめぐる悲しきおとぎ話の顛末
「西表島イリウムティ」アクセスを拒む原生林が覆い隠すエロスな闇とは?
「黒島フスマ」”ありえない”奇跡が現実となる、混沌と整然の融合点。触媒となるマレビト来る。
「与那国島ドウナン」海超え、国境越え貪欲に突き進むパワフルオバァの一生。
「石垣島イシャナキウ」8島を統ばる石垣で、ちょっとズレてるけど物語をつなぐ少女のストーリー。
(2011/4/15読了)




題名:花桃実桃
作者:中島京子
発行:中央公論新社 2011/2/25 初版発行
ISBN-10:4120041964
ISBN-13:978-4120041969
価格:¥1500+税

オールドミスのヒロインが、肩たたきに近い形で定職を辞し、流れついた先がアパートの管理人。亡父が残した形見の物件「花桃館」、処分するにはビミョーな資産で、実益を兼ねて住み着く決意。しかし、住人は一癖フタクセあるヘンな人々、ありえない父の愛人、ヨワヨワなウクレレ弾き、年齢不詳の整形美人、謎の探偵、ヘンな詩人の外国人。アパートのトイメンは墓場で幽霊はでるわ、年齢気になるお年頃、シワも増えるし、情緒不安定で円形脱毛症を発病なんてね。ちょっとワケありな彼らと過ごしながら、自分のこれまで、そしてこれからを見つめ直していく〜。
堅苦しくなくすいすい読める、行き遅れて薹が立っためぞん一刻なんてね、焦がれるような恋愛小説ではありえないけれど、しみじみじんわりしみてくるオトナのラブストーリーかなあ。

【蛇足】しかし、最近続けて読んだ2作品と東日本大震災関連で気になるシンクロ。『花桃』のヒロインの将来を左右するキーワードが、原発問題のある”福島”、『統ばる島』には村を飲み込む大津波のエピソードがあり東北沖の被害を彷彿とさせるようで、なんか奇妙なデジャブみたいなのを感じたよー。(2011/4/15読了)




題名:機動戦士ガンダムUC(6) 重力の井戸の底で
作者:福井晴敏
発行:角川スニーカー文庫 平成22年10月1日初版発行
ISBN-10:4044748217
ISBN-13:978-4044748210
価格:¥620

UCガンダム地球編。ファーストガンダムでいうところの、「ランバ・ラル」篇といったところでしょうか?。ファーストの映画版では「哀・戦士」と銘打たれたサブタイトルの象徴となるランバ・ラルとのエピソード。青臭いアマちゃんから、戦士へと成長していくストーリーは、その役割をランバ・ラルから、ネオ・ジオンの残党軍人スベロア・ジンネマンに変え、UCガンダムでもなぞらえられます。
「アニメ原作」という土台の上で、「戦争とはなにか?」という福井作品に共通する命題(らしさ全開)を、熱く濃く語る一方、ファーストガンダムリスペクトには、”そこまでやるか?”というぐらいに忠実。さすがに、ちょっと中だるみになりつつあるこの巻あたりの展開は、もうちょっと(ファーストから)脱線してもいいんぢゃないかと思ったりもしますが、それをしないことの信頼が、ファーストガンダム世代を含めた、オールガンダムファンの支持につながっているのかな、と思ったり。
時間軸での進展やシチュエーション、言い回しや、メカ、群像劇は、歴史は繰り返す、を今のところ地でいっているような感じ、あとは、もっとミクロなストーリ、バナージ〜ミネバ〜リディの恋のさや当てみたいなのが、守るべき人を守るというピュアな主張で、対極の政治的な展開、ガンダムワールドの決まりごととどんな折り合いをつけるのか、これからの続きを読むなかで福井さんのさじ加減はどう差配されるのか、注視ですなあ。 (2011/4/28読了)




題名:観光
原題:SIGHTSEEING(2005)
作者:ラッタウット・ラープチャルーンサップ Rattawut Lapcharoensap
訳者:古屋美登里
発行:ハヤカワepi文庫 2010/8/20印刷 2010/8/25発行
初出:2007/2単行本発行
ISBN-10:4151200622
ISBN-13:978-4151200625
価格:¥840

タイ・・・タイといっても東南アジアの、そうまさしく「観光地」というイメージしか思い浮かばない。亜熱帯であるとか、あとは発展途上国、そんな感じ。この作品は、そんなタイが思いっきり描かれたストーリー。
読み手である私は、上っ面なタイの情報しか持ち合わせていないから、思いもよらなかった生活を描く視点にまずは戸惑う。大部分は多感な年頃の少年少女の一人称の語り、淡々としてシンプルなスタイルだけれど、湛える感情は深い。素朴で直球的、というかストレートすぎるから、澄んで純粋な痛み、残酷さがダイレクトに読み手に響いてくる。

這い上がれない運命に弄ばされているような感覚、底辺に流れる諦めへの切なさ、幸せへ打開の処方箋は示されないけれど、かといって彼らを突き放してはいない。前向きに豊かさを貪欲に求めた昭和世代?ニッポンの原風景につながる、懐かしさみたいなの、でも、ノスタルジーではない、逆に初々しさすら感じる筆致に読んでいて思わず引き込まれた。混沌(カオス)のエネルギー、生きる意味が持つ、怒りや喜び悲しみ、そしてもっと根っこの欲望も、さらり赤裸々に書かれている気がしたのな(2010/4/29読了)

【収録作品】
「ガイジン」ハーフでネイティブにもガイジンにもなりきれない、キレイな”ヨソモノ”の女の子を追いかける少年の戸惑い
「カフェ・ラブリーで」少年がオトナの扉をたたく一瞬を切り取る。未知への世界への不安と喜びと脱出。
「徴兵の日」カネで兵役を逃れた少年の裏切り。救われぬ親友に対する深く苦しい懺悔。
「観光」失明を告げられた気丈な母と共に初めての「観光」に出かける、少年の葛藤。母との悲しき交感。
「プリシラ」貧窮が心を引き裂く、タイの少年とカンボジア難民の少女との出会いと、悲しい別れの顛末。
「こんなところで死にたくない」老アメリカ人の滑稽で頑固で、それでいて淋しく孤独を募らせるお話し。
「闘鶏師」勝算なき理不尽な運命にただ立ち向かうしかなかった闘鶏師の父を見つめる娘の気持ち。




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