一酸化炭素

1、どんな所で発生するか

       1、木材、紙類、ポリエチレン、ポリスチレンプロパンガス、ガソリン、灯油、     などの炭化水素が焼却のされた時、これらが不完全燃焼すると一酸化     炭素が発生する。    2、灯油などの石油製品が不完全燃焼を起こした排気中には 5% くらいの     一酸化炭素が含まれている。    3、ガソリンエンジンの排気ガスには、 1〜10%(平均6%) の一酸化炭     素が含まれている。これに比して、ジーゼルエンジンの排気ガスには      0,01〜0,07% と低い。      自動車の一酸化炭素を減少させるための触媒コンバーター装備車では一酸     化炭素中毒ではなく、二酸化炭素中毒で死亡する。    4、コークス炉、変性ガス生成炉、電気炉、高炉、発生炉などから漏れて中毒が     起こる。発生炉ガスの一酸化炭素濃度は、30%近いので危険である。    5、メタノール、アンモニア、シュウ酸の製造工程からも漏れる。    6、近年、よく使われる二酸化炭素アーク溶接で、二酸化炭素の熱分解と、     熱せられた金属の還元とによって一酸化炭素中毒事故が発生している。    7、体内で分解されて一酸化炭素を発生するものに、ハロゲン化メタンがある。     ジクロロメタン(塩化メチレンCH2CL2) は、ペンキ剥離剤、機械の脱脂洗浄     剤、エアゾール噴射剤、不燃性フィルムの製造などに、毒性の高い四塩化     炭素に代わって広く使われている。    8、かっては、麻酔剤として一酸化炭素が使われたことがある。    9、非喫煙者の血中一酸化炭素ヘモグロビン COHb 濃度は平均1、3%、喫     煙者のそれは 6、0% で、10% になる事も珍しくなく、ヘビースモ     ーカーでは、15〜17% に達する。   10、一酸化炭素は体内でも発生する(内因性一酸化炭素)。ヘモグロビン、     ミオグロビン、シトクロム、などヘム鉄の分解によっても発生し、脂質の過     酸化によっても発生する。溶血性貧血、血腫、重金属中毒の時の溶血、     ポルフィリン症、などの時には増加する。

2、作用と症状、許容濃度

 一酸化炭素中毒は貧血性低酸素症による障害、組織蓄積、他のガスとの相互作用 などが絡んでいて暴露と症状との関係が一定していない。   1、貧血性低酸素症による障害     一酸化炭素と結合したヘモグロビンは酸素と結合できないから血液の酸素    供給能力は低下し、組織は貧血性低酸素症に陥る。 一酸化炭素とヘモグロビン    との結合力は、酸素とヘモグロビンとの結合力よりも、250倍も高い、例    えば、一酸化炭素濃度が 800ppm 有れば、血中ヘモグロビンの 50    % は COHb となる。即ち血液の半分を失ったと同じと考えられる。     しかし、一酸化炭素中毒の場合のヘモグロビンの組織への酸素供給効率は、    単純な「貧血」の場合よりもさらに低下する(ヘモグロビン酸素溶解S字曲線    の左方移動)ことが判っており、さらにシトクロム酸化酵素のFe2+と結びつ    いてこの酵素の活性を阻害する、などが重複的に生じ、単純に血液の半分を失    った以上の症状や影響がでる。不整脈や心筋障害、昏睡などである。     たとえば、CoHb濃度が10%ある喫煙者の心筋はミオグロビンの30    %が一酸化炭素ミオグロビンになっている。一酸化炭素中毒では各種の不整    脈や心筋障害が良く見られ不整脈は時に数ヶ月続くことがある。     鉄が多い組織では、比較的低い COHb 濃度でも、シトクロム酸化酵素の活性    が抑制されることにより、脳の淡蒼球や白質に病変が起こる可能性があり、    CoHb濃度が50%を越すと早期に昏睡が現れる。     人では、一酸化炭素濃度が800〜1200ppmの吸入で昏睡、呼吸不全、    心不全から死に至る。1900ppを吸入すれば短時間で死亡する。     一酸化炭素によりヘモグロビンが酸素を組織に供給する能力を阻害する    程度は、PHの高低、二酸化炭素分圧、体温、メトヘモグロビン、シトクロム    酸化酵素活性阻害、等、により変化する上に、これらの貧血性低酸素が原因    で起こる症状だけでなく、単純な貧血性低酸素症だけではまだ説明がつかな    い、さらに次項の様なことも考慮する必要がある。   2、一酸化炭素中毒の症状発現には時間がかかる     一酸化炭素を吸ってもすぐにはヘモグロビンと結合しない。吸気中の一酸化    炭素濃度と血液の COHb 濃度が平衡に達するのに数時間、時には10時間ぐ    らいかかる。一酸化炭素が血液中から組織へ移行するにも、組織から消失する    のにも時間がかかる。これらのことによって一酸化炭素と結合したヘムタン    パクは病変のゆっくりとした進行の原因になると考えられる。     低濃度の一酸化炭素を長時間吸入した時、体内には時間をかけて相当量の    一酸化炭素が蓄えられている事になる。こうした場合は、COHb 濃度が低くて    も、間欠型一酸化炭素中毒が現れる危険がある。入院時ほとんど正常でありな    がら退院し、数週間経って間欠型の症状を呈して死亡した症例も少なからずあ    る。妊婦が一酸化炭素中毒になった時、胎児だけが死亡することがあるのは、    胎児のCOHbがそもそも高く、一酸化炭素を吸入した時のCOHb濃度は母    体血のそれより高濃度になるだけでなく、消失に時間がかかり、心拍出量を増    やすことによってこれを代償することができないなどの理由によるものである。   3、組織蓄積する一酸化炭素     一酸化炭素は、血液から組織にも移行し、組織内のミオグロビン、シトクロ    ムP450 、過酸化水素分解酵素、ペルオキシターゼ、などのヘムタンパクと    結合し、体の中に入った一酸化炭素の10〜15%は最終的にこの形で蓄え    られる。        カナリアは体の大きさに比べて換気量が大きいので、COHb 濃度が上がり    易く、よく炭鉱の坑内で飼われていて、高濃度の一酸化炭素の検知には役立つ    が、カナリアのヘモグロビンは一酸化炭素との親和性が人に比べてはるかに低    いので、組織に吸収される時間も長く、低濃度長時間暴露に対しては人より鈍    感で役に立たないことに注意をする必要がある。     胎児のCOHb濃度は母体のそれより高濃度となり、しかも消失半減時間が長い    ので、妊婦が一酸化炭素中毒になった時、胎児だけ死亡することがある。     一酸化炭素との親和性が強く、全体の10〜15%を蓄えると言われるヘム    淡白が、一酸化炭素の供給源となって症状の発現と消失に長時間がかかる原因    であると考えれれている。 4、体内で発生する一酸化炭素     体内で分解されて一酸化炭素を出すものにハロゲン化メタンがある。ジクロロ    メタン(塩化メチレン)は、麻酔作用、皮膚刺激症状があり、飲めばショック、    除脈、アシドーシス、溶血、などを起こす後遺症は残さないで回復するのが普    通である。発がん性がある。ジクロロメタンの人の最小致死濃度は1000p    pm・2時間で、軽度のめまい中枢神経抑制が見られる。     ジクロロメタンによるペンキ剥離作業に6時間従事していると、一酸化炭素    ヘモグロビンCOHbは、26〜40%に上昇する。COHb濃度が高い割に    は中毒症状が軽い。     体内で発生する(内因性)一酸化炭素には、ヘモグロビン、ミオグロビン、    シトクロム、などヘム色素の分解や、脂質の過酸化によっても発生する。     内因性一酸化炭素ヘモグロビンは、溶血性貧血、血腫、重金属中毒の時の溶    血、ポルフィリン症などで増加する。     胎児や妊婦、喫煙者、などではCOHbが高い。     一酸化炭素ヘモグロビンCOHbは、5%程度の濃度でも、心臓に悪い影響    がある。冠状動脈性心疾患が有る場合には、0.6、2.0、3.9%と濃度    依存的に心電図上の変化が現れやすい。ロサンジェルスの町をオープンカーで    90分ドライブした場合、町の空気を普通に吸いながらドライブしたときと    ボンベの酸素を吸いながらドライブした場合を比較したところ、前者のCO    Hbが5.0%後者が0.65%で、狭心症の痛みが早く起こり始め、しかも    長く続いた。     現在のところCOHb濃度が2〜3%で軽度の視力・聴力障害、時間認識の    低下が現れると言う研究があり、5%を越えると、視力障害や高度な判断力の    低下が始まるというのが定説である。    5、他のガスとの相互作用     火災による一酸化炭素中毒の場合などでは二酸化炭素、シアン化水素、アン    モニア、アクロレイン、窒素酸化物、二酸化硫黄、ホルムアルデヒド、等を吸    入している。窒素酸化物の場合はメトヘモグロビン血症がおきる。場合によっ    ては、塩化水素、フッ化水素、硫化水素、なども吸入している。     エンジンの排気ガスなら、窒素酸化物のほかベンゼン、トルエン、などの炭化    水素などを吸入している。これらはすべてそれ自身中毒の原因となるガスで、し    かもほとんどのものが一酸化炭素と相互作用があることが知られている。     一酸化炭素中毒だとされた人が実はシアン中毒だったと言うことは珍しくない。    一酸化炭素中毒はほんの付けたしなのに一酸化炭素中毒だけの処置をしていると    言ったことが起き勝ちである。     6、酸素欠乏による障害     他のガスと並んで大きな影響をもつのが酸素欠乏性低酸素症である。呼吸器    疾患がある人、高地の場合、胎児、妊婦、喫煙者、も影響を受け易い。     同じ部屋に寝ていて部屋に漏れ出した一酸化炭素で喫煙者の夫は中毒死し、    非喫煙者の妻は助かったと言うのもある。     ガソリンエンジンの排気ガスを車内に引き込むと一酸化炭素濃度が上がると    ともに酸素濃度は下がる。低酸素症はそれ自身の影響以外に一酸化炭素中毒を    増悪させる作用もある。   7、間欠型一酸化炭素中毒     間欠型一酸化炭素中毒は、昏睡状態のあと、意識が出始め、正常ちかくに    回復しながら、早い時には2日目から、遅い場合には2〜6週間後に突然、失    見当識、錯乱、不穏状態、無関心、行動異常、不全失語、痙攣、痙性を伴う歩    行障害、パーキンソン様症状、失禁、植物状態から死に至ることもある。     病理学的には大脳白質の神経線維のミエリン鞘の損傷が見られる。一酸化炭    素による血液の酸素供給能の低下が引き金となり、二次的に起きた局所の血流    障害、組織のアシドーシスが主な原因と考えられる。  症状は、各種の不整脈、心筋障害、が良く見られ、不整脈は時に数ヶ月続くこと がある、頭痛、頭重、吐き気、めまい、まぶしい感じ、耳鳴り、四肢痛、全身倦怠、 物忘れ、血圧低下、ショック、も、そして 一酸化炭素中毒は強度のアシドーシスを 伴うのが普通である。 COHb濃度が50%を越すと早期に昏睡が現れる。  症状における重症度は、吸入濃度、被爆時間、換気量、循環血液量、大気圧、始め にあった COHb 濃度、などによって左右される。  表1 に血液中の COHb 濃度と症状の関係を示したが、これはほんの参考で、急 性一酸化炭素中毒の COHb 濃度と症状との間には一定の関係がみられるわけでは ない。上記に示した様に一酸化炭素中毒は単純な貧血性低酸素症ではないからだ。           表1 血液中のCOHb 濃度と症状の関係
血液中のCOHb濃度          症状
10%〜軽い頭痛(特に運動時)前頭部頭重感
20%〜拍動性の頭痛、吐き気、めまい、動悸、呼吸促進、
30%〜激しい前・後頭部頭痛、頻脈、めまい、視力障害、昏迷、失神、
40%〜上記症状の憎悪、視力・聴力障害、筋脱力、
50%〜昏睡、痙攣、
60%〜昏睡、呼吸の抑制、心機能の抑制、
70%〜心不全、呼吸不全、死亡、
          表2一酸化炭素濃度と症状その他の関係
一酸化炭素濃度症状その他
 10ppm 日本における大気汚染防止法の基準、一時間値の一日平均値(注)、事業所則、ビル管理法の許容濃度
 20ppm 日本における大気汚染防止法の基準、一時間値の8時間平均値
 25ppm米国産業衛生監督官会議(ACGIH)が示す大気基準、米国(TWA)基準
800〜1200ppm昏睡、呼吸不全、心不全から死に至る。
1900ppm短時間で死に至る
 (注)日本における大気汚染防止法の基準は、「一時間値の一日平均値が10ppm    以下であり、かつ、一時間値の8時間平均値が 20ppm 以下であること」と    なっている。

3、事故例

   1、 2001年、北海道の製鉄所構内の発電所エネルギーセンター内で、高     炉ガスが漏れる事故が発生し、ガスを吸入した作業員18人が中毒、病院に     運ばれて手当てを受けた。高炉ガスには20%くらいの一酸化炭素が含まれ     ている。    2、1990年、徳島県の工場で、合金鉄作業場の電気炉から漏れた一酸化炭     素を吸って作業員が倒れているのが見つかり、助けに行った8人が次々に倒     れた。1人が死亡、3人が重症の一酸化炭素中毒であった。    3、1990年、千葉県の製鉄所構内の転炉から廃ガス管にクレーン車のアー     ムが接触して亀裂が入り、転炉ガスが噴出し、付近に滞留、一酸化炭素中毒     で1人が死亡、3人が入院した。    4、2002年、三重県四日市市の食品工場で、コーヒーのエキスを抽出する     工程で、エキス抽出用タンクに落としたひしゃくを拾おうとして空になった     タンク内に入り、倒れた。5人が助けようとしてタンク内やタンク近くで気分     が悪くなり中毒を起こした。ひしゃくを拾おうとした人はその後死亡した。      タンクに錆びなど酸素を消費するものはなく、コーヒー豆の焙煎による     一酸化炭素が発生し、抽出のための熱湯が注がれたときに空気中に一気に浮     遊してタンクに流れ込んだもの。 ファイル作成 ファイル更新 2006;02;14                            戻る