シアン化水素(青酸ガス)、シアン化合物、ニトリル類、

1、どんな所に使われているか

   1、化学兵器としてシアン化水素、塩化シアン、が使われた。現在では、     化学兵器禁止条約で民生用に限り生産される第二種指定物質として     規定されている。    2、臭化シアンは、塩化シアンと同じ毒性をもち、化学兵器禁止条約で規     定されていないものの、化学兵器候補物質の1つである。    3、ナチスがユダヤ人を強制収容所で殺害したのは、「チクロンB」 と言う     青酸化合物であった。    4、1930年頃から、青酸を珪藻土と混合したサイローム(商品名)は、殺     鼠、殺虫剤として、ねずみやカイガラ虫退治の目的で全国のみかん農     家等で使われた。    5、帝人の、テジロン、メチブロン、は、青酸殺虫剤として使われる。    6、青酸薫蒸剤(商品名チバクロン)は、輸入青果物栽培用植物、果実、野菜、     切花、穀物、の薫蒸に、倉庫、コンテナ、などで使われている。      1996年度の国内生産量は 32 トン であった。    7、住宅の薫蒸にアクリロニトリルと四塩化炭素の混合ガスが使われた     事があった。    8、フィリピン、インドネシア、南太平洋の毒物漁法にドラム缶入りのシア     ン化ナトリュウムが使われ、さんご礁の生態系を破壊している。その魚     は香港、上海、バンコク、などのシーフードレストランに輸出されている。    9、メラミン樹脂、アクリル樹脂、合成ゴム、ABS樹脂、AS樹脂、等の各種     樹脂の製造工場で発生する。   10、塩化シアンは、アクリルニトリルの副生産物として、化学製品の原料     として、発生する。 沸点 12、8℃ で、揮発性が非常に高く、加水分     解を受けやすい。国内では、年間 4000トン あまりが大気中に排出     されている。   11、発泡ポリウレタンを製造する時に触媒として、ジメチルアミノプロピオニ     トリルが使われる。   12、重合開始剤、有機発泡剤、である、2−2’アゾビスイソブチロニトリル     製造の中間体として、ヒドラゾジイソブチロニトリルが使われる。   13、トンネルや下水工事に地盤注入剤としてアクリルアミドが使われる。触     媒として、ジメチルアミノプロピオニトリルがつかわれた。現在地盤注入剤     としてのジメチルアミノプロピオニトリルは使用中止になっている。   14、フタロニトリルが青色染料の中間体として生産された。   15、シアン化第一金カリュウムは、金メッキに使われる。工業用シアン化ナト    リュウムは年間3万トン生産されている。   16、金属の焼きいれ工程で発生する。   17、電子部品(IC)製造工場で発生する。   18、窒素を含む有機物、絹、羊毛、ナイロン、アクリロニトリル、アクリル系     繊維や樹脂、ポリウレタン、等が燃えた時に、シアン化水素が発生する。      パソコンケース、電気スタンド、カセットテープ、等に使われる ABS や     AS樹脂 が火災などにより燃えた時や、し尿処理場から出る汚泥の焼却炉     等から発生する。      統計によると、火災で死亡する人の約21%がシアン化水素中毒が原因     であり、一酸化炭素中毒が原因で死亡する人は、約2%だった。   19、アセトニトリルはマニキュア除去液として爪の形成剤除去液として使わ     れる。   20、梅の実、もも、アンズ、りんご、ナシ、の種には、遊離シアン(アミグ     ダリン配糖体)が含まれている。

2、症状、作用、許容濃度

   シアン(CN-)は3価の鉄イオン(Fe3+)と強い親和性を持ち、呼吸酵素である シトクロム酸化酵素の(Fe3+)と結合し、この酵素の機能を阻害する。この結果、 細胞内のミトコンドリアではブドウ糖からのエネルギー産生が停止する。つまり 組織に酸素は供給されるが、組織はこれを利用できない状態となる。硫化水素 やアジド、ホスフィン、脱共役剤、と同じく組織中毒性低酸素症を引き起こす。 細胞内呼吸が障害されるためエネルギーを多く消費する中枢神経にまず影響 が現れる。  症状は、頭痛、頻呼吸、頻脈、めまい、運動失調、昏迷、昏睡、ケイレン、など である。血圧や脈拍数は当初上昇するが、後に低下する。肺水腫が起こること がある。心電図上、不整脈、ST-T波の異常が現れる。  組織が酸素を利用することができなくなるので、粘膜はサクランボ色と言われ る赤色を呈する。シアン中毒の人の約半数の人に見られる。  ブドウ糖の好気的分解が阻害されるので、乳酸が蓄積し、頻呼吸、ケイレン、 乳酸アシドーシスがあったらシアン中毒を疑う。呼気のアーモンド臭は60〜80 %の人に起こり、シアン中毒の判断の参考になるが、臭わない場合もあるので 注意を要する。  シアン化水素の吸入による急性中毒場合は、数秒で症状が現れ、数分で死亡 する。  シアン化水素の間欠型中毒が起きることがある。一週間目に快方に向かってい た症状が突然悪化する。脳の基底核に病変が現れ、錐体外路症状が現れる。  シアン化カリウムを飲んだ時には、症状の発現はやや遅れる。胃が空腹の時 は胃酸が多いので、症状が早く現れる。30例中25例が1時間以内に、29例が 3時間以内に死亡している。1時間生存していれば予後は良いと言われている が、7時間45分後に死亡した例もある。  ジメチルアミノプロピオニトリルやアクリルアミドは、多発神経障害を起こす物質 として知られている。  シアン化水素、シアン化カリュウム、シアン化ナトリュウム、塩化シアン、 臭化 シアン、の許容濃度

               
項目シアン化水素シアン化カリウムシアン化ナトリウム塩化シアン臭化シアン
沸点(℃)25,7  12、8 
急性毒性 致死量(成人)0、17〜0、3 g(3mg/kg)    
ガスを吸入した時の致死濃度120ppm・1時間    
200ppm・10分   92ppm・10分
400ppm・2分    
脱出限界濃度 (米国国立労働安全衛生局 OSHA による)50ppm    
許容濃度 (米国産業衛生監督官会議 ACGIH による)10ppm  50mg/m385mg/m3
慢性毒性 最小中毒量(TDL0) 14mg/kg714μg/kg  

 中毒時の全血のシアン濃度は、1〜2、3μg/ml で、40μg/ml で生存例もある。 3、事故例  1、1977年、東京都で、電話ボックスに置いてあった青酸カリ入りのコーラ   を飲んで、高校生2人が死亡した。  2、1984年、青酸カリ入りのチョコレートやキャラメルがスーパーやデパート   に置かれるといったグリコ森永事件以降食品企業脅迫事件が多発したが、   犠牲者は出ていない。  3、1982年、米国で、鎮痛薬のカプセルにシアン化合物が混入され、7人が   死亡した。1986年2月にも、1人の死者がでた。さらに同年6月にも2人が   死亡した。1991年2月にも、カゼ薬のカプセルで1人が重症、2人が死亡   した。  4、1979年、南米ガイアナの奥地ジャングルの人民寺院で、小児を含む   911人が、シアン化ナトリウムを果物ジュースに入れて飲み、集団自殺   した。  5、1958年、広島県で、金属商が、古容器のバルブをハンマーで叩いたとこ   ろ、青酸が噴出し、死亡1人、中毒14人、軽症27人の被害が出た、古容器   は、旧陸軍の廃棄物であった。  6、1964年、北九州市で、貨物船を青酸薫蒸したところ、警告の日本語が理   解できなかった密航者4人が死体で発見された。  7、1972年、船倉の青酸薫蒸作業中に転落した作業員を助けようと、防毒   マスクを付けて船倉内に入ったところ、倒れた。船倉内は500ppm近くあっ   たと思われ、防毒マスクでも防ぎ切れなかった。3週間後、視力障害などの   症状は改善されたが、感覚鈍磨、知的水準の低下が残った。防毒マスクは   ろ過式と吸気式があり、吸気式のほうが安全性は高いが、一長一短があり、   その取り扱いには十分な注意が必要だ。  8、1995年、長崎県で、青酸薫蒸した漁船の船室で、乗組員が死亡してい   るのが見つかった。  9、1988年、輸入果物の薫蒸に使ったシアン化水素を水酸化ナトリウムと反   応させてシアン化ナトリウムとして原液槽に貯留し、次亜塩素酸と硫酸と反   応させてシアンを分解する作業工程で、原液槽の中の清掃に入った人が、   残っていたシアン化ナトリュウムと水とが反応して、シアン化水素が、発生し   た。救急隊員が到着した時、深昏睡で、散瞳、自発呼吸は弱く、脈拍は触れ   ず、心臓マッサージをしながら病院に運ばれたが、治療の結果、12日目に   は後遺症なく退院できた。  10、1992年、大量のシアン化カリウムの粉末が飛散したままの室内にいた   人が、約10時間後死亡しているのが発見された。シアン化カリウムが空気   中の二酸化炭素と反応し、発生したシアン化水素を吸ったものと思われる。  11、1989年、銅メッキ製品の分析室で、塩酸が入っていたポリ缶を水でゆ   すぎ床に流した所、床面い付着していたシアン化ナトリウムからシアン化   水素が発生し、作業員が意識不明となって倒れた。  12、1982年、堺市のAS樹脂をつくる工場で、化学薬品タンクが爆発し、アク   リロニトリルとスチレンのガスが流出し、4人が死亡、62人が重軽傷を負った。  13、アセトニトリルを主成分とするマニュキュア除去液を15〜30ml飲んだ   1歳6ヶ月の幼児が20分後に吐いたが、休ませておいた所、翌朝ベットで死   亡していた。同じ除去液を約30mlを体にこぼした2歳の幼児は8時間後うめ   き声をあげた上吐いた。入院時昏睡状態で、けい皮吸収による中毒と考えら   れる。保存的治療で回復し、3日後に退院した。  14、1978年、米国で、自動車の座席シート製造工場で働く男性が、数ヶ月   前から排尿困難を訴え、病院に入院した。同僚5人のうち4人が同じ症状だ   と言う。発泡ポリウレタン製造する際に触媒として使う メチルアミノプロピオ   ニトリル が原因である事が突き止められた。排尿障害の他に、インポテン   ス、下肢の軽度知覚運動麻痺も認められた。膀胱から局所的に吸収されて   自律神経麻痺が起こったものと思われる。この物質は局所的な自律神経麻   痺を主症状とする点が特徴である。  15、1975年、バルブ操作を誤って、噴出したラクトニトリルを浴びた人が、   濡れた作業着を着たまま働き、その後作業着と下着を取り替えただけで作   業を続けた。2時間後、吐き気、めまいを訴え、2度吐いた。すぐ入院したが、   1時間後意識不明となり、入院13日目に腎障害で死亡した。  16、1966年、アクリロニトリルの重合物で詰まったパイプを洗浄中の従業員   が、含まれていたラクトニトリルの溶解液で下着まで濡れたが、入浴施設が   無かったので、手洗いと洗顔だけして退出した。帰路途上で倒れ、何とか自   宅に戻ったが、暴れまわり、入院3時間後に死亡した。  17、アクリロニトリルと四塩化炭素の混合ガスで住宅の薫蒸をしたところ、薫   蒸終了2週間後、室内のインコが死亡、その一週間後、その家の主婦の腹   部やかかとに発疹、水疱が現れ、まもなくこれが全身に広がり、びらんは口   腔粘膜、舌に及び、入院3日めに中毒性表皮壊死融解で死亡した。    ベンゾニトリルは四塩化炭素により著しく毒性が増す。 ファイル作成 2002;07;26 ファイル更新 2003;04;05                            戻る