有機リン系農薬
1, どんな所に使われているか
1, 農業用、家庭園芸用、殺虫剤または殺菌剤、除草剤、として使用されて、その後、
河川に流れ出し、浄水場から水道水に入ってくる。このほか水道水には台所用洗
剤も混入する。
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2,木材防腐剤として、(テトラクロルビンホス、フェニトロチオン、プロペタンフォス
、クロルピリフォス、ホキシム、ピリダフォンチオン、等)が、使用されている。住
宅室内に農薬蒸気となって体内に吸収される。
3,日本工業規格では、稲わらを使用した畳には、ダニなどの害虫が発生しない様
に防虫加工することが規定されている。フェニトロチオン(商品名スミチオン)フェ
ンチオン、ダイアチノン等が1g/m2程度使用されている。
4,電車、バス、タクシー、航空機、などの、車内、機内、消毒に使用される。
5,塩化ビニール、ウレタンフォーム、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、の可塑剤、難燃剤、
ガソリンの添加剤、潤滑油添加剤、として燐酸トリオルトクレジル(TOCP)、 が入って
いる。
6,床みがきワックスの可塑剤に燐酸トリエステルが入っている。
7,妊娠中絶薬の成分の1つに TOCP が入っている。
8,眼科の縮瞳薬として、エチルパラニトロフェノールが入っている。
9,疥癬治療薬の軟膏にフェニトロチオンが入っている。
10,動物の内服用駆虫剤としてカルクロホス、トリクロルホン、ジクロルボス、がはいっ
ている。
11,金魚などの観賞魚の寄生虫駆除に、トリクロルホンが、
12,犬のノミ,シラミ、ダニ、の駆除に、首輪に取り付けて使われる、テトラクロルビン
ホス、ダイアジノン、ジクロルボス、が入っている。
2, 有機リン系農薬の症状
有機リン系農薬は、地下鉄サリン事件で、問題となった毒ガス兵器であるサリンや
ソマン、タブン、VXガスと同じ仲間で、症状や作用部位、性質、もサリンとほぼ同じと
考えてよい。ただ、サリンよりは毒性が残りにくい薬物で、国内外で一般的に広く
つかわれている。
毒性を呈する原因は、(殺虫剤の場合)コリンエステラーゼ拮抗作用で、脳内および
抹消の神経伝達物質コリンエステラーゼの働きを阻害することにより、アセチルコリン
が過剰蓄積することで神経毒性を発揮する。コリンエステラーゼとは「コリンの働きを
消し去るもの」と言う意味である。
アセチルコリンが蓄積して結果的に有機リン農薬と同じ作用をするコリン作動薬を
マウスに投与すると、マウスはジーと動かなくなる。そして少しの刺激を加えるだけで
興奮が暴走し、痙攣を起こして死んでしまう。このことからも有機リン剤は、興奮が暴走
して緊張状態が持続したり、思考が同じところをグルグル回ってスイッチがいつまでも
切れない、血圧や血糖値、自律神経も張り付いたままの状態が続く、自分の体が自分
の思いのままにならない、気温の変化についていけない、というような異常な感覚に陥
ることになる。
ウレタンフォーム、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、のなかに難燃剤として有機リン剤が
はいっているが、これが燃えると、環状燐酸エステルが発生し、ピクロトキシン、ビクク
リン、に匹敵する強力な脳内神経伝達物質 ギャバ (GABA=ガンマアミノ酪酸) 拮抗
作用を示し、痙攣を引き起こす。
殺菌剤の場合は、いもち病菌の燐脂質生合成経路とコリン生合成経路を阻害して殺菌
作用を表す。有機リン系除草剤の場合はアミノ酸合成や有糸分裂阻害により殺草作用を
示す。殺菌剤や除草剤として使われる有機リン剤にはコリンエステラーゼ阻害作用は
少ない。除草剤のグルホシネート(L-AMPB)はグルタミン合成酵素拮抗的作用により、ギャ
バ(GABA=ガンマアミノ酪酸)の減少を招く。
アセチルコリンの蓄積による中毒症状は、下記の如く 副交感神経刺激症状、交感神
経刺激症状 、汗腺刺激症状、中枢神経刺激症状、神経行動毒性、 がある。
副交感神経刺激症状=縮瞳、流涎、流涙、気道の分泌昂進、消化管の蠕動昂進による嘔
吐、下痢、便失禁、尿失禁、急性膵炎、徐脈、低血圧、
交感神経刺激症状 =頻脈、高血圧、蒼白、高血糖、尿糖、体温上昇(低下)、
汗腺を支配する交感神経の刺激症状=発汗、
中枢神経刺激症状 =不安、興奮、不眠、情緒不安定、言語不明瞭、筋肉のれん縮、意
識レベル低下、昏睡、ケイレン、
神経行動毒性 =抑鬱、記憶障害、焦燥感、感情鈍磨、集中力欠如、持続力欠如、
悪夢、分裂性反応、妄想、幻聴、無関心、攻撃性、
この他、DDVP(ジクロルボス 商品名ラピック、ネオカリン、サンスモーク、VP、殺虫プレ
ート、園芸用バポナ殺虫剤、DDVP、等)は光過敏症をおこす。
自覚症状としては、摂取後2時間以内に、脱力感、目のかすみ、吐き気、が殆どの場合
にみられ、つぎに多いのが、頭痛、腹痛、めまい、である。縮瞳は数時間のおくれがある。
中毒性心筋障害で冠状動脈のれん縮やそれに伴う心停止が起こる。急性期の循環不全
による死亡は心臓死の可能性がある。肺血栓塞栓症も報告されている。
分泌増加を伴う気管支痙攣、呼吸筋の麻痺、などもあるが、直接の主たる死因は呼吸
中枢の麻痺によって起こる。
農薬暴露、1〜3週間後(中間期症候群)に、下肢または上肢の知覚異常、しびれ、声帯
麻痺や下肢末端から次第に増強し上肢にまで及ぶ運動麻痺、筋萎縮、企図震戦や失調
性歩行などの小脳変性、多発性硬化症、錐体外路症状、などの遅延神経障害が出ること
がある。回復に数ヶ月から数年かかる。完全に治らず筋萎縮を残すことがある。
殺虫剤トリクロルホンの場合、体重1Kg当たり10ngのレベルでアレルギーを発症させる。
そしてこのレベルでも、70日以上神経障害作用が、蓄積残留することが確かめられており、
微量長期の慢性毒性を起こすことがある。
不純物の影響
有機リン剤の原体に含まれている微量の不純物も大きく影響する。例えばマラソン原体
に混在するイソマラチオンは毒性が高く、この物質が純品のマラソンに2%混入するだけで
原体の毒性は 10倍 になる。マラソンの原体を 40℃ で、6か月保存すると、イソ
マラチオンが 0,2〜0,45% 増加し、毒性は 1,35倍 になる。
マラソン乳剤にはキシレンが 80% 含まれている。溶血や汎血球減少、骨髄抑制が、
製剤中の溶剤または不純物が原因で起こる可能性がある。
3,事故例
1、1950年、モロッコで、食用油に混入していた TOCP が原因で1万人の神経麻
痺患者が発生した。
2、1983年、イラクがイランに対して使ったタブンと、1988年にクルド人に対
して使ったサリンは、兵器として実際に使用された有機リン神経剤で、1994年、
松本サリン事件では、死者7人、入院56人、1995年の地下鉄サリン事件では、
死亡 12人、中毒 5500人が出た。
3、1969年、沖縄の米軍基地で容器が破損してサリンが漏れ、米軍関係者 24人
が中毒した。この事で沖縄に化学兵器が配備されている事が判明し大きな問題と
なった。サリンはそもそも漏れ易いガスで米国国防省の正式発表だけでも 1960
〜1968年の間に 955件 の漏洩事故が起きている。
4、1968年、ユタ州の実験場で試験撒布をしていたF4ファントムジェット戦闘機の
容器からVXが漏れ羊6400頭が死亡した。
5、1954年、茨城県でパラチオン撒布後早期に収穫したキュウリを漬物にして食
べ、7人が中毒となり、激しい嘔吐と水溶性下痢を起こし、内3人が死亡した。
6、1987年、栃木県でフェンチオン5%含有の粒状殺虫剤を撒布した牛房に入れた
子牛 32頭 全頭に下痢が発生し、下痢が止まった後も、起立不能になり、5〜
20日後に14頭が斃死した。殺虫剤を撒布していない牛房に移し、治療をした牛は
助かった。
7、1983年から白蟻駆除の仕事につき、86年からクロルピリホスを使い始めた
人は、91年頃から、視力障害、呼吸困難、発汗過多が次第に憎悪し、緊張、
不安、焦燥、入眠困難、頭重、ふらつき、全身倦怠感を訴えて受診した。
8、1997年、埼玉県で、ぼうふら退治用のスミチオンを自治会員が市販の清涼飲
料水の空き瓶に小分けして配り、清涼飲料水と似た乳白色だった為、老夫婦が
誤って飲み、夫は死亡、妻も中毒を起こした。
9、農薬製造工場で、農薬調整中に作業衣の股の部分にパラチオンをこぼしたため、す
ぐに脱いでシャワーをあび、作業衣と靴を取り替えた。作業衣はクリーニングに出さ
れたが、その作業着を着て2人目の中毒が起き、さらにクリーニングに出されたが、
その作業着で、3人目の中毒が起こった。工場の規定では汚染された作業着等は焼
却処理することになっていた。
10、1997年、ビンが割れてこぼれた MEP乳剤 (家庭用スミチオン乳剤、フェニ
トロチオン50%含有) を素手で処理した53歳は、3日めから、吐き気、腹痛、
下痢、の症状を呈し、8日めに水溶性下痢を伴う急性大腸炎で入院した。筋力
低下があったが、その後改善の傾向がうかがえたところ、6日目に昏睡、呼吸
停止、血圧測定不能、になったが、集中治療の結果、何とか助かった。
11、1997年、長野県各地で、渡り鳥のレンジャクの突然死が発生した、 EPN に
よる農薬中毒であった。
12、1951年、毛シラミ退治の目的で、陰部有毛部に有機燐系殺虫剤を塗布した人
が、一人は2時間後に死亡、1人は8時間の昏睡ののち一命を取り止めた。有機
燐剤は皮膚からも、肺からも、よく吸収される。
13、有機リン剤の空中散布で、パイロットの目がかすみ、空中事故につながる。
車の運転においても、トンネルの出入り口など明るい所から急に暗い所に入ると
事故になることがある。
14、1976年、パキスタンで、マラリア撲滅運動の1つとしてマラソンの撒布をして
いた 7500人 のうち 2800人 に有機リン殺虫剤中毒が発生し、少なくと
も 5人 が死亡した。撒布作業で皮膚から吸収されたものと思われる。
15、「佐久の眼病」は、世界で最初のマラチオンによる慢性有機リン中毒の報告例
である。
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ファイル更新 2003;10;03
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