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No.1
当工房で主に使用している灰はわら灰、ケヤキ、松、タモギ(当地では稲を乾燥するためのハザ木としてつ
かっていました。コバノトネリコだとおもいます)です。入手が困難になりつつある松の代替を模索中です。
これらの灰は精製して釉薬調合に使うのですが、精製過程でのひとつのエピソードをお話したいと思います。
それは松灰を精製している過程でおこりました。その灰は「不用になって切り倒した松が沢山あるから、いらな
いか」といわれて、自ら山に取りに行ってその冬に燃して取ったものです。
二十数年来、灰こしをしてきて精製過程での同一樹種の灰の状態の差異は、一部を除き直接木を入手します
ので、その生育地を把握していますから、その生育地の土質に起因すると理解しておりました。
しかし、その松灰の水簸(すいひ)後の状態は今まで松灰で経験したことがないものでした。ニガリで豆乳を凝固させた
状態にちかく、上澄みのPHはケヤキなどにちかい感じでした。コロイド化学の本からの知恵と、水洗いの回数
をふやすことによって、その問題も解決し、焼成試験でも異常はありませんでした。
後日、その松の生育地は非常に酸性の強い土地だとききました。生物学の知識はありませんが酸に対抗する
ため幹に本来あるべき以上にアルカリを蓄えたのかなとおもいました。天然物と向きあっていると、いろんなこ
とを教えられます。機会があったら、植物生態にあかるい人に伺ってみたいものです。
No.2
灰の話に戻ります。樹種によって、灰の焼成呈色の違いを資料No.1で確認できます。上左から松、楢、藁
下左から榎、タモギ、栗灰です。 呈色主因は酸化鉄、幾分、マンガンも作用しています。これらは窯業専門書
等に公表されている定性定量分析表によって確認できます。天然物の分析表数値なので当然ばらつきがでま
す。したがって、数値を絶対視せず、幅のある数値と捉え、使用する灰のテストピースを作り焼成試験をして、
状態確認をする必要があり、このことが使用する灰そのものをしる最重要作業です。あくまで表数値は参考
程度にとどめるべきです。灰に含まれる燐酸が色調に影響を与えます。これは灰釉の特徴のひとつです。
6個のピースのうち特徴的なのがふたつあります。ひとつは藁灰、もうひとつは栗灰です。藁灰は不熔融状態
で、指先で払えば簡単に剥離します。この原因は藁灰は珪酸(SiO2:藁灰の珪酸は結晶質ではない)が非常に
多く、石灰が少ないことによります。皆さんも分析表から類推してみてください。
このことは、藁灰乳白釉を造るのに石灰分に富んだ灰を、併用しなければならないことを示しています。
藁灰周辺部には特につよい緋色が現れています。この現象も応用可能でしょう。
ひとつのピースからこのように、いろんな情報がえられます。
つぎに栗灰を見てみましょう。藁灰はこの話から除外します。他のピースと栗灰には明らかに違う点がありま
す。他のピースの釉薬面は平滑なのに対し、栗灰の釉薬面は微細な凹凸たとえば油揚げ肌状を呈します。
このことは栗灰をどの釉薬に使えばいいかを示唆しています。
資料No.2に話をうつします。四個のテストピースは各原料割合が同一で灰の種類だけを代えたものです。
上左からケヤキ、タモギ下左から米松、松です。呈色酸化物は酸化第二鉄です。
写真から判るようにタモギは派手目な色あいになります。織部などの試験をしてもその傾向を示します。
私の趣向に合うように例外的にタモギ灰に関しては他の灰とブレンドして使っています。灰を2ないし3種類ブレ
ンドして使うことは、釉薬調合における危険率を下げるということでは実務上有益ですが、灰の品質管理に注意
をはらい一釉薬一木灰を守っていきたいと思います。
No.3

藁灰乳白釉について。
資料No.1のピース1は当工房で使用している藁灰乳白釉です。ピース2.3.4はピース1の藁灰の全量を藁灰
重量の100%、80%、50%の珪石で置換したものです。ピース2は不熔ぎみ、ピース3も少々不熔ぎみ、ピー
ス4の乳白状態はピース1にちかいが、ピース1の方が黄色味を帯びる。これは藁灰に比べ、鉄分をほとん
ど含まない珪石が色を薄めたとみるべきでしょう。藁灰には強い熔融作用を示すRO(アルカリ)、R2O(ア
ルカリ土)が存在することを考慮すると、今回使用した藁灰の珪酸含有量は65%前後ではないでしょうか。
ここで今回と記したのは、藁灰採取のときの燃焼方法によっては、灰に含まれる遊離炭素の量が極端に
違うからです。たとえば、表面積の小さいおお山に藁を積んで燃焼すると、内側は白く、表面だけが黒く
残ります。これを逆にすると白い部分が少なく、黒い部分が多くなります。黒い部分は炭素を多く含んだ灼
熱減量の大きな灰になります。このように採取の仕方によって炭素含有量が大きく違いますので、当然灰
にたいする珪酸含有重量%も大きく違ってきます。したがって採取するたびに、釉薬試験をして藁灰調合
量を決めなければなりません。
ここで乳白釉の色合いの違いについて質問を受けることがありますので、少し考えてみたいと思います。
釉を乳白させるには基本的に二つの方法があると思います。一つは2種類の液相(この場合ガラス相)が
生成され、一つの液相が他の液相の中に細かい粒子となって分散することによって生じる乳白、もう一つ
は液相の中に細かい結晶(乳白剤)が分散することにより生ずる乳白です。たとえていえば、前者を牛乳、
後者を白い粘土を入れた水にたとえればわかりやすいと思います。よつて前者を乳濁釉、後者を懸濁釉と
呼ぶことも出来ると思います。その立場にたてば、藁灰乳白釉(珪酸乳白釉)は乳濁釉に属し、ジルコン、
錫乳白釉(マジョリカ)などは懸濁釉に属します。市販の乳白釉の多くが後者であるため、藁灰乳白釉をご
覧になったお客さんが、このような質問を発せられるのだと思います。
日々、お客さんと接しているといろんな質問を受け、緩みかけた頭脳の整理をさせられる思いがします。
No.4
陶工控書をご覧いただいた方々の「化学式に戸惑う」「読み方が判らない」等の意見、日々、接するお客
さんの「陶器と磁器の違いは何ですか?」に代表される焼物に対する質問がありますので、しばらくの間、
窯業(セラミックス)に関する基本的な話をしてみたいと思います。焼物独特の読み方については(よみ)をつ
けます。 セラミックスには陶磁器以外にガラス、琺瑯(ほうろう)、セメント、耐火物その他の分野がありますので、
ここでは、私の取り組んでいる陶磁器に関して話をしてみようと思います。
窯業(ようぎょう)(セラミックス)は[無機物質を原料とし、それらを加工成形し、熱処理して、有用物を生み出す工業]
と定義されます。 陶磁器で説明すれば、坏土(はいど)で器物を作り、それに釉薬をかけて、窯で焼成して焼物を
作り出すことにあたります。 *坏土:使用目的にあわせて調整された粘土
皆さんがよくお使いの「セラミック」という言葉はセラミックスが生み出した個々の製品に対して使われてい
るのだなあと、話の内容から推測しています。 身の回りには、皆さんがイメージされる焼物以外のセラミ
ックス製品が結構あるものです。
「陶器と磁器の違いは何ですか?」は「陶器と磁器はどのように分類すればいいのですか?」と言い換え
ることが出来ると思います。しかし、唯一の分類法は存在しません。例外として、素地原料に主眼を置いた「磁器は石物、陶器は土物」、
一般の皆さんに分かりやすくは「磁器の原料は石、陶器の原料は土」という分類法が世間一般に定着していることです。この分類法では、
ほとんどの日本の磁器が磁器でなくなってしまうから困ったものです。なぜなら、日本最大の磁器産地の瀬戸、美濃で石単味粉砕物での一
般磁器製造は行っていません。この分類法は泉山陶石による日本最初の磁器製造に由来すると思われます
が、日本のみならず、磁器産地それぞれに研究をし独自の坏土で製作しています。また、消費者が器の原
料が土であるか石であるかを識別するのは、至難のわざだと思います。このように不都合を生じますのでこ
の分類法は止めるべきだと思います。
唯一の分類法が存在しないといいましたのは、時代、背景によっていろんな分類法が提唱されてきたから
です。ここでは日常手にされることの多い磁器、陶器、b器(せっき)について、実用的で消費者の皆さんにも覚えやすい分類法を紹介し
たいと思います。

左の表は透光性、吸水性に着目した分類法です。
透光性の○は光を通す、×は通さない。
吸水性の○は水を通す、×は通さない。
すべての磁器、陶器、b器がすっきりとこの表に収まるわけではありませんが、実用的な分類法だと思い
ます。b器という耳慣れない用語がでてきましたが、身近な物では朱泥(しゅでい)の急須がそれにあたります。
No.5
釉薬(ゆうやく)について記述したいと思います。
釉薬をなぜ掛けるのだろうという質問には、こう答えることが出来ると思います。釉薬を掛けることによっ
て装飾性、物理的化学的抵抗性(耐磨耗性、耐酸性、耐アルカリ性など)を向上させることが出来るからで
す。
釉薬の話を進めるのに、最低限知っておきたい酸化物と釉薬原料について以下で説明します。
ゼーゲル式についてはあとで説明します。
塩基性成分群:ゼーゲル式第一項にくるもの。
酸化カルシウムCaO: 釉薬原料の石灰石(炭酸カルシウム)からとり入れます。私は天然灰から取って
います。日常的には乾燥剤として眼にします。
酸化ナトリウムNa2O: 曹長石(そうちょうせき)からとり入れます。窯業ではナトリウムをソーダということのほうが多い。
酸化カリウムK2O: 正長石(せいちょうせき)からとり入れます。窯業ではカリウムをカリということのほうが多い。
酸化マグネシウム(マグネシヤ)MgO: マグネサイト(炭酸マグネシウム)、タルク(滑石)からとり入れま
す。鉄棒の選手が使っている滑り止めの白い粉は炭酸マグネシウムです。
中性成分:ゼーゲル式第二項にくるもの。
酸化アルミ二ウム(アルミナ)Al2O3: 主にカオリンからとり入れます。身近なところではアルミに出る
白い錆。ルビー、サファイヤもアルミナ結晶です。ガラスのアルミナ含有量は一部を除けば0に近いか少量
なのに対して、釉薬では主成分のひとつです。
酸性成分: ゼーゲル式第三項にくるもの。
珪酸(シリカ)SiO2: 珪石を使います。水晶は珪酸の結晶です。踏みつけると音の出る泣き砂は、珪酸
分の多い砂と言われています。
呈色酸化物(着色剤)
酸化第二鉄Fe2O3: 青磁、黄瀬戸、各種天目などの呈色に使います。
酸化銅CuO: 正式には酸化第二銅。織部、辰砂などの呈色に使いますが、酸化鉄より呈色幅は広くあり
ません。
上記以外にも多くの酸化物がありますが、SK6a〜SK8(1200〜1250度)で熟成させる伝統的な陶器釉の
話を理解するのには十分だと思います。低い温度たとえば、1000℃以下で熟成する釉薬を作る場合は
硼酸(ほうさん)や酸化鉛が必須となります。この場合硼酸や酸化鉛はフリットにして使用します。
フリットは釉薬を学ぼうとする人がたいてい遭遇する単語ですので、簡単に説明します。酸化鉛、水溶性
の硼酸塩、水溶性のアルカリ塩を主にシリカと共に熔融し冷却粉砕した物をフリットといいます。安定した
フリットを作るための規則としてフリット規定あります。フリット規定は専門書(たとえば、窯業工学ハンドブ
ック)で見ることが出来ます。
もう一つ釉薬の話や釉薬調合実験において、重要な役割を果たす三角座標について説明しておきます。
正三角形内(辺も含む)の任意の一点から三辺におろした垂線の長さの和は、正三角形の頂点から辺に
おろした垂線の長さに等しい。頭の体操と思って証明に挑戦してみませんか?正三角形がキーワード。
この正三角形の性質を利用すると、正三角形内の任意の
点の値が一意的に決まります。図1で説明します。A,Bの値
を求めてみましょう。A:(a,b,c)=(50,30,20) B:(a,b,c)=(30,
20,50)となります。言葉で表現すると、調合物A,Bはa,b,c
という3成分から作られており、Aはa:50%,b:30%,c:20% Bは
a:30%,b:20%,c:50%で構成されている、となります。%は重量%
です。逆に言いますと、釉薬原料a,b,cで構成されている
釉調合物はa,b,cを頂点とする三角座標内の一点で示すこ
できることになります。このように正三角形の特性を利用して
窯業に貢献しているのが、3成分系状態図と三角座標です。
しかし釉薬実験をする場合、私としては調合物を点としてとら
えず、面すなわち点を中心とした近傍領域と捉えています。なぜなら、教科書的純粋原料は皆無に等しく
組成にばらつきがあるのでそう捉えるべきだと思います。事実その方が、実験結果が予測と違う場合に
柔軟に対処でき、問題解決の役に立ちます。たくさんのテストピースを作って、経験を積んでおくのが前提
ですが。使用する原料の性質を知るのに、装置もお金もないものにとって乳鉢と乳棒は最大の武器です。
No.6
aR
2O

xR
2O
3・yRO
2釉式(ゼーゲル式)について記述したいと思います。
bRO
釉式は便宜上(aR2O、bRO)・xR2O3・yRO2と表記させてもらいます。
ゼーゲル式と聞くと拒否反応を示す方が多いと思いますので、誤解を恐れずに、私なりに噛み砕いて説明
し、たまにする料理と比較してみたいと思います。ゼーゲル式は分子式ではなく釉薬の組成表示法であり、
窯業独特のものであると言うことをまず第一に理解してください。それでも分子式だと主張して釉薬の話を
難しくしたい人にはルーペで数個の釉薬面を観察することをお勧めします。容易に不均一な部分を観察で
きるでしょう。分子にこだわると無限大の分子の一部を観察していることになり、無限大という把握不可能
な分子から分子式と主張するすっきりとしたゼーゲル式を確定することは不可能です。ゼーゲル式から窯
業原料を決定する演習を後でしてみたいと思いますが、ここでは少々無謀でしょうが料理と比較して話をし
てみましょう。話をわかりやすくするために数値は無視します。焼成温度Tの釉薬のゼーゲル式から使用原
料a,b,c,dを割り出し、それらをミルにかけて調合し、それを素地に掛けて焼成する場合を考えてみましょ
う。窯の中の温度を焼成温度Tにする方法は、短時間に温度Tにする手法(A)から時間をかけて温度Tにす
る手法(B)までその間を含め幾通りあります。両極の手法(A),(B)を採用した場合の焼成品A1,B1を比較し
てみたいと思います。B1が優良な焼成結果を示す場合、A1は焼きがあまいか不熔ぎみな結果を示しま
す。この原因は調合物が温度Tになれば目的の釉薬に即なるのではないからです。釉薬原料の反応度合
いは反応し始めてからの温度×時間に比例します。あとで話に出ると思いますが、幾通りの焼成方法のあ
る焼物にとって焼成温度より、皆さんが焼物に持っておられる感覚に不釣合いな言葉である熟成ならびに
熟成温度が重要な要素になります。
同じ食材で短時間に作ったカレーとゆっくり時間を掛けて作ったカレ
ー、野菜炒めの火力と炒め時間の長短による見た目と味に違いのあるのに似ています。料理にも温度×
時間は重要な要素だと思います。上記から判るようにゼーゲル式から原料算出法が理解できれば直ちに
釉薬が出来るものでもなく、ゼーゲル式が理解できないから釉薬が出来ないものでもありません。実際、ゼ
ーゲル式が使用されるようになった19世紀末以前にも釉薬は立派に存在しています。料理のレシピに例
えれば、ゼーゲル式は材料表に対比させることが出来ると思います。少しは肩の力が抜けたでしょうか?
釉薬を本格的に勉強しようとされる方は、ゼーゲル式が上記の話にある組成表示だけでなく焼成温度即
ち、ゼーゲル何番(時間当たりの温度上昇率の規則があります)に近い釉薬であるか、透明釉か艶消し釉
かなどの釉薬の性質の判定にゼーゲル式が貢献していることを知るようになると思います。釉薬実験をす
る場合、ゼーゲル式を理解していると実験結果で問題にぶつかったとき、問題点解決思考過程で助力して
くれます。以上より、ゼーゲル式を知らなくても釉薬は作れますが、理解していたほうが効果的に結果を導
いてくれるのではないでしょうか。少し意味は違いますが、数学を学ぶことによって得た数学的思考法によ
り、無限連鎖講いわゆるねずみ講やマルチ商法の欺瞞性を見抜き、危険を回避するのに似ています。こ
れは「数学を勉強してなんの役に立つ?」のに対する現実的な一つの回答であります。私の場合、釉薬実
験を三角座標で行っていますが、ゼーゲル式、釉薬原料特性、焼成理論などを学んだことが、実験結果に
対する情緒的混乱を回避するのに大いに役立っています。
ここからは釉薬をこれから研究しようとする人を対象にゼーゲル式について話を進めます。私の経験か
ら、化学式を扱う者にとって元素の周期律表と質量保存の法則は最低限理解しておかなければならないも
のです。周期律表は化学教科書に説明記載されています。質量保存の法則は「化学変化の起こる前と後
の質量の総和は変わらない」というものです。もう一つ必須となるゼーゲル式の分子式の前にある係数「モ
ル数」について説明します。理解しやすいように水素と酸素が反応して水が出来るのを例に説明したいと
思います。水素:元素記号H、原子量1、酸素:元素記号O、原子量16 通常水素、酸素は分子H2,O2で
存在し、それらが反応して水H2Oになるという反応を反応式で表してみましょう。水の分子を見ると水素と
酸素の比率が2:1だから二個の水素分子2H2が一個の酸素分子O2と反応して水H2Oができる事になりま
す。これを反応式で示すと「2H2+O2→H2O」となります。ここで左辺と右辺の質量について考えてみましょ
う。左辺:(2×1(水素の原子量)×2)+(16(酸素の原子量)×2)=36、右辺:1×2+16=18となり、
これは明らかに質量保存の法則に反します。法則が成り立つためには右辺に2を掛けなければならない事になります。
したがって、「2H2+O2→2H2O」が正しい反応式になります。原子単位で反応式を観察すると、左
辺と右辺の各原子(この場合、水素原子H、酸素原子O)の個数がそれぞれについて等しくなっています。
これは質量保存の法則を原子レベルで表現すると「化学反応前と後の各原子の個数は等しく、増えも減り
もしない」となります。反応式の各分子式の前にある数字がモル数であり、1モルは分子量にグラムつけた
もので、H21モルは2g、O21モルは32g、H2O1モルは18gとなります。上記反応式を言葉で表現すると「2モ
ルの水素分子と1モルの酸素分子が反応して2モルの水分子が出来る」となります。反応にかかわる各分
子の質量は各分子1モルに各分子のモル数を掛けたものになります。
ゼーゲル式(aR2O、bRO)・xR2O3・yRO2のR2O、
ROに塩基成分、R2O3に中性成分、RO2には酸性成
分がそれぞれ入ります。a,b,x,yはモル数です。以前お話した酸化物CaO,Na2O,K2O,MgO,Al2O3,SiO2を各
成分に分けると、R2O、RO塩基成分:CaO,Na2O,K2O,MgO, R2O3中性成分:Al2O3, RO2酸性成分:
SiO2となります。釉式では塩基成分のモル数a,bの和が1(追記)となるようにします。これは釉薬原料の各重量%
から各成分のモル数を求めた後に、塩基のモル数の和で各成分のモル数を割る作業にあたります。和を
1とすることによって、塩基と酸性成分、中性成分との関係が理解しやすくなるからです。フリットの話にで
てきた無水硼酸B2O3,酸化鉛PbOについては、PbOは塩基成分に、B2O3は日本では中性成分に入れて
います。日本ではと書いたのはB2O3の特異性からR2O3に入れたり、RO2に入れたりする事があるからで
す。ドイツでは酸性成分に入れるそうです。呈色酸化物CuO,Fe2O3はRO、R2O3に入れることが出来ます
が、着色剤と言う趣旨からするとゼーゲル式で表される基礎釉に対して何パーセント添加と表記したほうが
良いと思います。
No.7
ゼーゲル式から原料調合割合を算出する。
(0.3K2O・0.7CaO)・0.5Al2O3・5SiO2という釉式から調合割合を算出する仕方を表にまとめてみました。

ただし各原料は理論値すなわち、正長石K2O・Al2O3・6SiO2分子量557、石灰石CaCO3分子量100、
カオリンAl2O3・2SiO2・2H2O分子量258、けい石SiO2分子量60.0とする。
よって各原料の調合量:長石:557g(1モル)×0.3=167g、石灰石:100g×0.7=70.0g
カオリン:258g×0.2=51.6g、珪石:60.0g×2.8=168g となります。
以上が教科書的調合量算出法です。実際には正長石一つとっても曹長石が含まれていることが多く、使用
する長石をある程度正確に把握するためには、その長石の含有酸化物百分比からどのような長石、その
他が含まれているかノルム計算を実行しなければなりません。実際、釉薬は教科書的原料ではなく天然原
料を用いて調合しますし、私の経験からも酸化物をどの原料から取るかによって、結果が違ってきます。
以上より上記調合物から釉式のもととなった釉薬を完全に再現する事は出来ないと思います。ある釉薬の
酸化物重量百分比から導きだされたゼーゲル式はその釉薬のかなり正確な組成を示していますが、その
逆のこのゼーゲル式から完全にもとの釉薬を再現する事は出来ません。ただし、元の釉薬を調合したとき
と同じ原料が手元にあれば話は別ですが。釉薬を調合するという実務的な立場からすれば、ゼーゲル式
は釉調合と式のこのような関係から、ゼーゲル式の組成周辺の大体の(以前話した)性質を示していると
捉えたほうが実用的だし、得るところが多いと思います。
以前、焼き物をしている人から「本に書いてあるように調合したけれど、そのようにはならなかった。あの本
は嘘を書いている」と言う話を聞いたことがありますが、上記の話を理解していただければ、一概にそのよ
うに断言できないと思います。一つの釉薬を完成させるという行程は、釉薬によって程度の差はありますが、
かなり時間のかかるものです。本に書いてあるとおりに調合すれば目的の釉薬が完成するなら、誰も苦労
はしません。再度確認しておきますが釉薬調合には天然物を使います。したがって自分の使う原料は基礎
実験をして、ある程度性質を理解しておく必要があります。釉薬実験の方法には決まったやり方はありま
せんが、自分が合理的だと思う方法を採用すれば良いと思います。三角座標を採用した場合、頂点に置く
原料によって三角座標という海の性格が決まります。航海のぶれを修正してくれるのが、本などから得た
知識と実験という経験から得た知識です。経験から得た知識は大いに役立ちます。焼成したテストピース
を三角座標に配置してじゅっくり観察すればいろんな発見が出来ると思います。このように実験を繰り返し
て目的の釉薬に近づいていくのです。時間はかかりますが、焼物に携わるものは独自の釉薬を持ちたいも
のです。
No.8
釉薬実験に挑戦してみましょう。
用意するもの:10グラムの釉薬を調合しますので掌にのる乳鉢、 乳棒、上皿天秤、素焼きのテストピース、
窯、それと一番大事な好奇心。
テストピースの形状は人によって違いますが、私の場合は長い間、鉄結晶釉をしてきましたので、流動性、
結晶と釉層の厚さとの関係、テストピース凹面に取り込んだ光による釉面色彩変化の観察に便利な杯形を
採用しています。窯に関しては、自分の窯に こしたことはありませんが、教室などの窯でもかまいません。
とにかく実行して感動を実感してください。
身の回りにある土石には大抵釉薬の主成分であるアルミナ、シリカが含まれていますので、それらを使っ
て肩肘張らずに挑戦してみましょう。鉄分を含んだ物を使うと色の変化も観察できるので、初心者にはお勧
めです。ここでゼーゲル式の話を思い出してください。アルミナ、シリカのほかに塩基成分が必要でした
ね。ここでは木灰を採用してみましょう。
下の左図の水簸乾燥ケヤキ灰と水打(みずうち)を使って実験をしてみます。これらを参考にしていろんな原料で試
してください。手順は後ほど説明します。
水打とは湧き水の淀みに生じた赤褐色の水垢状の沈殿物で、今回使用するのは近くの山の湧き水から採
取精製乾燥させたものです。瀬戸では黄土も水打と言います。上右図は水打で絵付けしたものです。
上図は直線座標に焼成したテストピースを配置したものです。みなさんの自由度を縛らないように、調合割
合は書きません。二種類の原料でいろんな表情が出るものだと言うことを確認していただければ結構で
す。直線座標左端はケヤキ灰:10、水打:0右に行くほどケヤキ灰は減少し、水打は増加し右端でケヤキ
灰:0、水打:10となります。
調合実習をしましょう。
直線座標の左端に灰を配置し、右端に採取した原料を配置します。釉薬10グラムを調合しますから、最
初は直線を十等分したものを採用したほうがわかりやすいと思います。こうすれば座標中心点目盛り番号
5は調合割合(5,5)となり、各原料の調合量は対応する数字にグラムをつけた量になります。各目盛り番
号の調合割合の数字の和は必ず10となります。たとえば左から目盛りに番号を0,1、2、・・・・・、10と付
けた場合目盛り番号2:(灰、採取した原料)=(8,2)となります。各番号に対して調合量を割り出し番号
と共にノートに記録します。ノートの記録をもとに各原料を上皿天秤で計量し、乳鉢に入れ水と少々の化学
のりを加え、 乳棒でよくすって、番号を書いたテストピースに掛けて、窯で焼成します。焼成したテストピー
スを観察しノートに記録をとります。 採取原料の性質を知るために、原料単身焼成もしておきましょう。
二種原料である程度の結果が出て、もう一種類原料を加えて釉薬に幅を持たせたいときに使うひとつの
方法が三角座標です。この場合直線座標を正三角形の一辺に、その辺と向き合う頂点に追加する原料を
配置します。三角座標については前述してありますので、それを参照してください。
このように身近なものからはじめ、徐々に市販窯業原料を取り入れて釉薬理解を深めていてはどうでしょ
うか? 今回本文を書くにあたって改めて調べたところ、今までに2500余個のテストピースを作成してお
り、その中には理屈じゃなく目で確認したいために作った調合領域を逸脱したテストピースが幾つかあるの
を思い出しております。