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No.9
天然灰に囲まれていると、今日では天然灰が入手困難であることを忘れてしまいがちになります。そこで 今回は誰にでも手に入る使用済みの石灰乾燥剤を使って調合実験をしてみたいと思います。
ただし以下の注意は危険回避のため必ず守ってください。
乾燥作用の無くなった乾燥剤を使うこと。これは乾燥剤の袋を手で触ると硬いところがなく、ふわふわした状態になっています。 心配でしたら、当分室内に放置して状態変化がなくなってから使用してください。
これを守らないと水を加えたとき発熱反応CaO+H2O→Ca(OH)2によって火傷をする危険があります。 必ず守ってください。

乾燥剤としてのCaO(生石灰)は空気中の水分と反応して、ゆっくりとCa(OH)2(消石灰)に変化していき ます。空気中には当然、炭酸ガスも存在しますから、いくらかCaCO3(炭酸カルシウム)も生成されますが 今回は無視します。
余談ですが、古来、日本建築に使用されている漆喰は消石灰を主成分として作られており、月日をかけ 空気中の炭酸ガスと反応して、石灰石と同じ炭酸カルシウムに変化し硬化していきます。
 一般的には釉薬原料として消石灰は使いませんが、石灰分の融剤としての性質を知るのには差し支え ありませんし、釉薬に現れる欠点も観察できますので、今回は使用することにしました。
  乾燥作用の無くなった石灰乾燥剤を消石灰とみなし、No.1は珪石65%、カオリン35%混合物(A)との、 No.2は長石との調合焼成(1230℃)結果を示したものです。これらを観察してみましょう。 ただし、No.1 には観察しやすいようにFeO(酸化第二鉄:鉄の赤錆として目にします)を3%添加しています。
No.1: 左端では素地に焼結状態を呈しますが、右にいくほど熔融度を増しCa(OH):A=5:5で最大の 熔融状態を示し、それ以降は熔融しにくくなり右端では指先で簡単に粉状態になります。
 No.2:長石は単独で志野釉として利用されますので、左端は熔融状態を示し、右にいくほど熔融度を増し Ca(OH)2:長石=5:5で最大となり、それ以降はNo.1と同様な経過を示します。
 以上の事柄から以下のことが理解できると思います。石灰分を加えることによって、単独では熔融しない Aを熔融させることが出来る。長石の熔融度を大きく出来る。しかし融剤としての石灰の添加量を多くすれ ば、それにあわせて熔融度が単純に大きくなるものではない。熔融度が最大となる調合割合が表の左右 両端の間に存在するが、表に示された溶融度最大の調合割合とは限らない。No.1,No.2のような大雑把な 試験からも、融剤としての石灰の重要な性質を知ることが出来ます。他の融剤についても試験をしてみま せんか?
釉薬性状を観察してみましょう。
No.2の左端のピースを除いて、熔融状態良好なピースのほとんどに釉薬の剥げた部分が確認できます。 このことは調合物を乳鉢で擂ったときに予測できます。釉液はいつも調合しているときのようにさらっとせ ずぼてっとし、そのことは釉掛けに必要な流動性を与えるためには、普段よりも多くの水を加えなければな らないことを意味します。その結果として、ピースに釉掛けすると乾燥釉面に多数の亀裂が現れました。こ れはCaに結合したOH(水酸基)に起因すると思われます。以上のことは、ある成分を取り入れるにしても 原料を吟味しなければならないことを教えてくれています。
水酸基といえば、30年近く前の苦い経験が思い出されます。釉掛けをするため高台にロウ引きをしよう とパラフィンを灯油で調整し、棚板と製品との熔着を防ぐためアルミナを入れたときのことです。入れたア ルミナが底に張り付き、かき回しても混ざり合わないのです。はたと気づいて成分表示を確認すると、それ は水酸化アルミニウムでした。水と油では混ざりませんよね。蝋まみれになったいわゆるアルミナを容器に 入れて窯で焼いて、本物のアルミナにして次回に使用しました。この経験は私に思い込みを戒め、技術屋 に必要な慎重さを教えてくれました。その後ロウ引きをする時は、窯道具を整理しておく棚にたまったアル ミナを刷毛で集めて、篩にかけて使っています。けちに見えますが、棚には結構アルミナがたまっているも のです。有効に利用しましょう。
No.10
陶磁器製作の重要作業工程である焼成について話をすすめていきたいと思いますが、今まで述べてき たように、例えば、青織部釉の組成はこの様で、色合いはこの様であるという定型が存在しない、言い換え れば百人製作者がいれば百通りの青織部が存在する焼き物の世界ですから、教科書的な話から始め、お りおりに実務的な話をからめた記述をしていきますので、各自判断して参考にしてください。事実私自身、 ライフワーク天目における釉調合、焼成に悪戦苦闘し、また日々生産している品々の焼成、釉調合に苦労 しています。
一般的に焼成には、素地と釉薬を同時に焼成する本焼、焼成した素地に釉薬をかけて焼成する釉焼、 釉薬を掛けずに焼成する締焼があり、焼成技法には酸化、還元、中性焔焼成があります。
  酸化、還元、中性焔焼成について私の使用しているガス窯で説明してみようかと思います。ガス窯に使用 される燃料はプロパン、ブタンでこれらは炭素と水素で構成されており、酸素と結合いわゆる燃焼すること によって水と炭酸ガスになります。
酸化焔焼成:燃焼に必要な酸素を十分に供給して窯内雰囲気を酸化状態にする。視覚的には窯上部の吹 き出し穴から炎が吹き出さない状態。
還元焔焼成:燃焼に必要な酸素を十分供給しないと、高温で強い還元性を示す炭素と水素は焼成物から 酸素を奪い取ろうとします。すなわち窯内雰囲気は還元状態になります。視覚的には吹き出し穴から炎が 出る状態。
中性焔焼成:供給される燃料の燃焼に必要な酸素が過不足なく供給されるときの窯内雰囲気の状態。理 屈ではこの様になりますが、実際にはこの様に管理することは不可能ですので、酸化、還元を交互に繰り 返してトータルとして中性焔焼成となるようにしています。視覚的には吹き出し穴から交互に炎が出たり、 出ない状態。
私の場合、窯内雰囲気の状態操作を煙突底部にあるドラフターとガス圧操作でしています。これらの焼成 法をどのように組み合わせて焼き物を焼成するかの一般的モデルは教科書、入門書、専門書に記載され ているので省略し、私の焼成法を記述しますので、その結果としての製品を”製品の紹介”、”ライフワーク (天目)”で確認いただけるかと思います。
天目、黄瀬戸     :最初から最後まで酸化焔焼成で行います。
織部、黄瀬戸、御深井:酸化焔、還元焔、酸化焔焼成の組み合わせで行っています。
青磁          :酸化焔、還元焔、中性焔焼成の組み合わせで行っています。
織部、黄瀬戸は一般的には酸化焔焼成で行うとなっていますが、上記の焼成法を採用すると酸化焔焼成 では得られない製品が焼けます。この様に焼成には決まった方法があるわけでもないので、一般的モデル を頭に入れて独自の焼成法を築き上げていけばいいのではないでしょうか。御深井(おふけ)に関しては灰の調合 量を減らして、絵があまり絞り手にならないようにしています。現在普及している電気窯にもガスバーナー を装備しているものが多くありますので、工夫をすれば以前と違っていろんな焼成法ができると思います。 時折、お客さんから「高価な食器を買ったが大事に扱っているのにすぐに口縁部が欠けてしまう(追記)。水洗い して置いていたら口縁部が欠けていた。ものに当てた覚えもないのになぜでしょうか?」という質問を受け ることがあります。
この問いかけは陶器製作にかかわるものにとっては、見逃せない指摘なので私なりに 考えてみたいと思います。指摘が事実ならば、実物は見ていませんが話の内容から、品物が食器に必要 な強度を持ち合わせていなかったことになります。焼成段階で釉薬は熔けたのに素地が十分に焼結してい なかったのではないかと考えられます。その結果として力学的に弱い口縁部に欠点として現れたのではな いでしょうか。すなわち素地の熟成が不十分だったということになります。以前お話したように窯内の焼成 品の温度が焼成温度に達すれば即目的の製品になるのではない焼き物の世界にとって、熟成という言葉 が重要になります。熟成という言葉は焼き物にとって必要ですのでわかりやすく話をしてみます。本焼きは 素地と釉薬を同時に熟成させる焼成法で、熟成させるとは窯内温度をある範囲内に保ち、各原料粒子と の間で行われていた化学反応を促進させ、素地については器形を保ち、目標とする外観と強度を与えるこ とであり、焼きが甘かったり、焼きが強くて形が変形する状態は熟成したとはいいません。釉薬については 目標とする釉色、釉面にすることであり、焼きが甘かったり、過熔ぎみになってはいけません。熟成させる ときの温度が熟成温度で、ある程度幅があります。熟成させると言うことは食品にたとえると自家製イカの 塩辛を作るのと似ているのではないでしょうか?この場合は発酵ですが、発酵不足ですと塩辛本来の旨味 がありませんし、手抜きをすると塩辛を通り過ぎて腐敗してしまいます。なんとなく似ていると思いません か?素地と釉薬の熟成温度に大きな開きがある場合は本焼きには向きません。この場合は素地をあらか じめ締焼して釉薬を掛けて釉焼きをしなければなりません。この様な素地と釉薬を使って本焼をすると釉薬 が熟成した段階では素地は熟成していませんので、当然製品に欠点が出ます。私は自分の製品を日常的 に使用して製品の強度を確認しています。
以上の話から私には本焼を理解することが他の焼成法を理解することであり、焼き物作りにとって大事 な事と思っています。本焼の施釉には素焼素地を使用するのが一般的ですが、生素地を使用することもあ ります。焼物製作工程で乾燥生素地は外からの力に対して最低の強度となり、施釉時にフヤケ切れを起こ す可能性があり、乾燥生素地を素焼することによってそれらを解消させることができます。私は素焼素地 を、特別厚い素地のときは生素地を採用しています。施釉に関する以上の話は実務面でいかにリスクを減 らすかという話であり、素焼素地にはない生素地の施釉時点での水分による素地の表面破壊が焼成後、 釉色、強度にどのように影響するかを調べるのも技術屋にとって生産効率とは別の意味で興味の対象とな ります。私が本焼をするときに留意しているところを記述します。素焼も同時に説明するために生素地を採 用することにします。熱電対(高温度温度計と理解していただければいいと思います。)は窯最上部中央に 設置していますので、窯上下部ならびに火前との温度差を考慮して話を理解しください。火入れから180 度Cぐらいまでは吸着水による水蒸気爆発(特に厚手の生地は注意)を防ぐために、十分に換気しゆっくり と温度をあげて行きます。吸着水とは乾燥坏土に粘性と可塑性を与えるために加えた水。次の注意温度 帯は500度〜650度Cシリカ(SiO2)結晶転移帯(結晶構造変化による急激な体積変化)での温度管理。 冷却時この温度帯での急冷は冷め割れの原因になります。次はカオリン質粘土鉱物の結晶水の放出が 完了する850度C前後、素焼はこの温度で完了させますが、実際の素焼ではこの温度を品物の大きさや 肉厚によって差はありますがある程度保持します。窯内雰囲気は酸化でなくてはなりません。本焼の話を すすめて行きます。還元焔焼成いわゆる攻め焚(せめだき)を実行する場合はこれ以降で、釉薬の焼結し始める温度 を把握して逆算して還元時期を決めます。還元焔焼成以前の酸化焔焼成期を炙り(あぶり)といいます。焼成の最 後の段階が熟成期で窯内雰囲気は釉薬によりますから一定ではありません。この段階の終了後、火を止 めてダンパーで煙道を封鎖して焼成を終了します。ただし、煙道の封鎖時期は釉薬、製作者の作品に対 する意図によって違います。  
No.11
融剤と媒熔剤について。
陶工控書を書き進んでいくうちに英語でFluxと表記される融剤、媒熔剤について、無意識的または意識的 に私自身使い分けていることに改めて気付かされます。どのように使い分けしていたか、私自身を振り返 って整理してみたいと思います。そうすることが陶工控書でそれらの字句に読者が出あったときに、字句に たいする私の意図を理解していただけるかと思います。
釉調合物を所定温度内で熟成させるために、釉薬調合時点で加える物として二種類の物質群がありま す。一つは他の成分と反応して強い熔融作用によってガラス相を形成するものと、もう一つは陶磁器焼成 温度範囲内で自ら熔融し、ガラス相を形成して他の成分を溶かし込んで反応を促進させるものがありま す。前者を融剤、後者を媒熔剤と区別しています。
代表的融剤である石灰石(CaCO3)について考えてみましょう。CaCO3を加熱していくとCO(炭酸ガス) を放出してCaO(酸化カルシウム)になり、さらにCaOを熔融するためには2570℃以上にしなければなりません。 しかし、本書No.9の実験No.1で確認できるように シリカ(SiO2)などの存在によって互いに溶け合います。このように融剤はシリカに代表される酸性成分と 共存するときに本領を発揮します。ここでゼーゲル式の各項は元素の酸化物で構成されていることを思い 出してください。石灰石を融剤に使用する場合、融剤本体である最終生成酸化物CaOに着目しています。 他の融剤についても同様です。これらの酸化物はゼーゲル式第一項塩基性成分群に分類されます。
本書で記述した物で長石類、大部分の天然灰、フリットが媒熔剤にあたります。これら媒熔剤は成分表を調べ ると分かるように、融剤成分を含んだ天然物か合成物です。
東洋陶磁の代表的な融剤である石灰と媒熔剤であると長石の焼成過程を経た性状は本書No.9の実験No.2から確認できます。 私は現在製作していませんが、上絵付けに使用される上絵具は媒熔剤と彩料から構成されており、この媒熔剤は大抵含鉛ガラ スです。私の場合、長石を使用するときはNa2O,KOに、灰を使うときはCaOに着目しているのでそれらを 融剤として扱っています。しかし、実際の焼成段階でそれらは媒熔剤として作用しますので、個々について 融剤か媒熔剤であるかを把握しておくことが、熔融過程を想像、理解するのに役立ちますし、同一調合、 同一焼成方法での原料粉砕度合いの違いによる釉薬状態の差異を理解するのに役立ちます。
 今回をもってNo.4から始めたセラミックスの基本的な話を終了し、次回から製作過程で思い当たったこと を私なりに整理し書き残すという本来の陶工控書に戻ります。
No.12
ロクロ成形をする場合、右手と左手で両手の間にある土に左右から押す力を加えます。この力をロクロの 回転によって土を上に上げる力と回転に逆らう力に変えます。土を上に上げる力に多く変換し、回転に逆ら う力を少なく出来るかどうかがロクロ技術の巧拙になります。図1がその状態を視覚的に表したものです。 私が父にロクロを習っていたときによく言われた『つちは押せば伸びる、土に逆らうな』という言葉は、上記 のことを職人的言葉で表現したものだと思います。ロクロを始めて三十余年を過ぎて、私の技術もやっと幾 らかはその境地に近ずいたかなと思えるようになりました。
図1に示したように点Aに加えた力に対してひずを戻そうとする力が土の内部に発生します。 その力による器形変化を写真3,4,5で表しています。3は 成形直後、4は乾燥後、5は焼成後です。口縁部にはあまり力を加えないので変形が少なくなっています。 このように内部に力が発生しますので、成形時に留意していることの一例を書いてみます。丸い
器を製作する場合は幾らか偏平にして作っておくと、削り仕上げの時点で偏平が持ち上がってかなり丸い形になって います。製作時点で丸く作ってしまうと、幾らか縦長の器になってしまいます。戻り具合は人によって製作技 法や力の入れ具合が違いますので、長年の経験によって偏平具合を把握します。ちなみに私は右手にコテ を持って、左手は素手で器を製作しています。めったにしませんが面取りをする場合も幾らか右に傾けて面 取りしますが、長いものとなるとなかなか真直ぐには行きません。
私の製作している品物には一部を除き貫入が入っています。ここで貫入について考えてみましょう。 貫入の入る釉薬は器胎よりも収縮率が大きい場合です。 この場合釉薬の一点は周りから引っ張られた状態になっています。すなわち張力釉です。図2が その関係を表したものです。点Aに着目してみましょう。点Aに貫入が 入る場合、力関係から歪を戻そうとする力の方向に対して直角に入る可能性が一番強くなります。すなわち口縁部に向かって ロクロ目は右上がりですが、貫入は左上がりに入ります。貫入はロクロ目に対して直角に入ると言われることがありますが、 歪を戻そうとする力が必ずしもロクロ目と平行には作用しないのでそうとは断言できませんし、実際に計測 するとロクロ目に対して直角であることはほとんどありません。また成形が完了するまでに貫入上の任意の 点は何度も力を受けているので、図2のような単純モデル一通りでは表せない状態になっていて貫入が直 線的になることはなく、角度を変化させて左に上がっていきます。焼成品を観察しますと、多くの貫入が口 縁部に向かって左上がりの流れを作っています。これらの左上がりの貫入の間に規則性をもたない短い貫 入も多数あり、貫入が入るときも一つの理屈だけでなくいろんな要素が作用していることが分かります。 ロクロが左回転すなわち逆回りのときは、口縁部に向かってロクロ目は左上がり、貫入の流れは右上がり になります。成形時に力の加わらない鋳込み成型で作った製品はこのような貫入の流れを作りません。
逆に、貫入を観察する事によって成形手法を推察する事が出来ますし、ロクロで成形されたものならば、 ロクロの回転方向が分かることになります。    
No.13
成形時に内側の底まで腕を伸ばしても指が届かない大きな袋物をロクロ成形する場合、基本的に二種類 の方法があります。一つはロクロ成形した器胎がある程度硬くなるのを待って口縁部に粘土紐を積み上げ ていき、積み上げられた粘土紐の部分をロクロびきし、ある程度硬くなるのを待って、さらに粘土紐を積み 上げてロクロびきをするという工程を繰り返して作る方法。この技法はテレビで製作風景がたまに放映され ることがありますので、ご覧になったことがあると思います。
もう一つの方法は各部分を別々に作り、削り仕 上げの段階でそれぞれを接合して一つの器を作り上げる方法です。私は父から後者の方法を習いました のでこれを採用しています。この技法の要点を記述したいと思います。ロクロ成形時にセンターが振れない ということは当然ですが、各部分を削り成形するときの、並びに、それらを接合して仕上げる段階でのそれ ぞれの要点を1図を使って説明します。1-1は分かりやすいように少々誇張表現していますが、接合面は外 側はぴったりと、内側はほんの少し隙間が開くように削って調整し、マガリ(カンナ)の刃先などで同心円ま たは螺旋状に線を彫りこみます。1-2はこれらを接合するときの状態を表している図で言葉で説明すると、 接合面aに薄く泥を塗り口縁部に粘土紐を一周まわし、ロクロを回転させて粘土紐の表面に水分を与えて ヘラなどを使って内側を少し高くして平らにならします。図の斜線部分は分かりやすくするために広く取って ありますが、実際には薄い層をなしています。次にb面に薄く泥を塗って上の部分を載せて上から力を加え ます。この図の場合を例にすると、肩をまんべんなく叩いて余分な土を排出させ上下の部分を密着させま す。接着後、接合部を中心に内外を削って形を整えます。
父から聞いた話ですが、むかし瀬戸では人間が 楽に入れる非常に大きな壷の場合、上から吊り下げられた人が内部に入り内側を削り仕上げしたそうで す。この技法の特徴は1-1のように処理することによって万が一切れが発生した場合、切れが表面に現れ ず内側に現れるという点。接合部が分からなくすっきりとした形に仕上がる点です。上の写真の壷は高台と 本体部を二つ計三つの部分に分けて作ったものです。
ある程度の高さのある高台をもった器を製作する場合、私は軽く仕上げるために本体と高台を別々に作 り、先に高台を削り仕上げしておいて、本体をシッタに載せて削り仕上げするときに高台を接合して器を製 作しています。接合の仕方は前述の方法でよいのですが、写真の馬上盃のような小さく軽い器の場合、本 体と密着させるために上から力を加えると、大物と違い高台は軽いので横にずれることがよく起こります。 かといって、泥で貼り付けただけでは焼成後に簡単に取れてしまうという欠点を生ずる恐れがあります。こ の問題を解決するために2図のように、高台上部の直径と同じぐらいの実際には図より浅い丸い穴を本体 に彫り、接合面両方に薄く泥を塗り高台を本体に載せて、ロクロを回転させて垂直、水平を確認し高台に力 を加え本体と密着させます。さらに本体と高台の隙間をロクロを回転させてヘラで本体部分の土を高台に 密着させて塞ぎ、修正を加え完成させます。この技法によって高台の横ずれが防止され、当然の結果とし て横ずれによる作品の傾きも防がれます。この例のように一つの技法に拘泥せず、作品に合わせて技法 の幅を広げていったらどうでしょうか?
 私のロクロの前に幾種類かのシッタが置いてありますが、焼き物を習っている人などが「どうしてこのシッ タには穴があいているのか?」と質問されることがあるので、シッタという言葉が出たついでにシッタについ て話してみたいと思います。質問に対する答えは「空気抜き穴」です。シッタをロクロに固定して削り仕上げ をするとき、シッタに作品を固定するのに作品を上から軽く叩きます。シッタは生素地で出来ていて作業の 前に作品と密着するように削り修正してあるので、このときシッタ内部の空気は圧縮され、密着度が良いほ ど作品を上に持ち上げようとして、作品が固定できない場合があります。このような不都合が起きないよう にシッタには穴があいているのです。薄手の軽い作品を作るのにロクロ技術はもちろんですが、振れもなく 十分調整されたシッタは脇役でも重要な役割を果たしています。
 お客さんに「ツマミや取っ手がよくとれるのはなぜか?」と聞かれることがありますので、引っ付け物につ いて基本的な話をしてみたいと思います。引っ付け物の代表である取っ手を例に話をすすめます。取っ手 の接着面に泥を付けて本体に押し付けて接着し、はみだした泥をふき取って仕上げただけの製品は乾燥 後、取っ手の横からの弱い力で簡単に本体から取っ手が分離することがあります。この場合、本体、取っ 手それぞれに接合面の欠損があまり見られなく極端な場合、接着の痕跡のないきれいな面をしていること があります。このような品物に施釉して焼成した焼き物は極端な話、釉薬の強度だけで持ちこたえているだ けになり、弱い衝撃で簡単に取っ手が取れてしまう結果になります。このような結果にならないために、これ から説明する図3ような接着法も一つの解決策と思います。3-1のように接合面に切り込み線を入れて、双 方に薄く泥を塗って取っ手を本体に押し付け、3-2のように取っ手の接合部を上下左右に軽く動かして、本 体と取っ手の胎土が混ざり合うようします。排出した泥をヘラできれいにし、水拭きして仕上げます。私はこ の方法でしていますので乾燥品、焼成品で取っ手の破損試験をしてみるとほとんど接合部以外で破損し、 接合部で破損してもどちらかの素地がえぐりとられた状態になります。以上より断面からどちらに近い技法 が採用されたか推測できます。この方法は手間がかかりますので量産体制下では前者の方法に傾くので はないでしょうか。
No.14
 製品を購入していただいたお客さん から『使用する前に器をどのように処理すればよいか?」という質問 をよく受けることがある一方で、器を丈夫にするために『私は鍋に器を入れて水から煮ている」「ヌカを入れ た水で煮る」とか、「祖母からの言い伝えで塩水で煮る」などの話を聞く事があり、実際そのように実践され ているようです。またある方から「作家ものの高価な皿を五枚買って、五枚まとめてグラグラ煮たら、皿二枚 の縁を欠かせてしまった」という笑えない話を聞かされた事がありました。先日も同様な質問を受け、多くの 皆さんが器の処理の仕方に悩んでおられるようですので、器を提供する作り手の立場からこの質問に答え る必要があると思い、今回はこれらについて考えてみたいと思います。結論から言いますと、素地や釉薬の 選定をも含めてきちんと焼成された器なら基本的に処理する必要はありませんし、ほとんどの皆さんが採 用されているいろんな方法で煮るという処理も必要はありません。なぜなら、1200℃以上で焼成された器 を短時間100℃(塩などを入れた場合は沸点はいくらか上がりますが)で煮ても、器を丈夫にするような組 織変化は起こりません。しかし、以前お話した焼き物の分類法から分かるように吸水性を示す焼き物が現 実に存在します。その吸水性に対する対処法が質問の形となったり、いろいろな処理方法の形となって提 示されているという事が皆さんの話の内容から分かります。短時間にびしょびしょになったりするのは焼成 法、器胎などに欠陥があるためで論外ですが、吸水性のある陶器は磁器にはない温かなやわらかさがあ り、吸水性のない磁器には凛とした冴えがあります。したがって、このように性質の異なる器を組み合わせ る事によって場の広がりを作る事が出来ます。このような利点を活用するために吸水性のある器とどのよう に向き合えばよいかという事になります。吸水性があるといっても吸水率が一桁から二桁までの幅があり、 吸水率の低いものはそのまま使用してもほとんど支障をきたしませんが、問題は吸水率の高い場合の対 処法です。結論で身も蓋もないことを書いてしまいましたが、器の使われ方別の対処法があります。器の使 われ方は大体{(1)短時間使用する。 (2)長時間使用する。}の二種類だと思います。
 (1)の状態で水分を入れたり、水分を含むものを盛ったりするのは主に食器だと思います。この場合温 かい料理にはお湯に、冷たい料理には冷たい水に前もって器を浸しておいてから使用します。こうすること によって、汁が器の内部に入るのを完全とはいきませんが防止し、刺身をじかに器に盛った場合、器によ って刺身の水分が奪われるという事を防いでくれます。結果として器の汚れを防いでくれます。たっぷり水 を含んだスポンジをイメージしていただければ理解していただけると思います。使用後洗ってよく乾燥させま す。どうしても汚れが気になるようなら、食器用漂白剤を使用すれば大抵解決します。
 (2)の状態で水を入れる代表的なものとして花器があり、これの水漏れ対処法として以前よりフノリ液、 オカユなどの糊状液体を花器に一昼夜入れて置いておく方法があり、器胎に欠陥がなければ大抵水漏れ は止まります。練り物を入れた前日のおでんの汁の濁りをペーパータオルで漉すとき、時間の経過と共に 目詰まりをして、水分の透過が停止するのと原理は同じだと思います。現在は化学的に合成された防水剤 が市販されていますが、水指など口にする水を入れるものにはフノリ液などの昔ながらの方法をお勧めし ています。以上の方法を試みて吸水性のある陶器とうまく付き合ってください。
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