話題の感染症の話
■タミフル耐性インフルエンザ感染症
 昨シーズン(2007-2008)にノルウェーなどの北欧諸国で流行したタミフル耐性のAソ連型(H1N1)インフルエンザが、今シーズン(2008-2009)には日本各地で流行して話題になっています。
 抗インフルエンザ薬(ノイラミニダーゼ阻害薬:タミフル、リレンザ))の作用機序を通してご一緒に勉強しましょう。

●気道で増殖するインフルエンザウイルス 

気道に侵入したインフルエンザウイルスは時間経過とともに加速度的に増殖し気道に放出され、周囲の気道粘膜細胞に新たな感染を引き起こしたり、呼気とともに呼出されます。

●インフルエンザウイルスの増殖様式と、ノイラミニダーゼ阻害剤の作用機序

1)インフルエンザウイルスはヘマグルチニン(HA)で気道粘膜細胞の表面のシアル酸に吸着します。
2)細胞膜に包まれてエンドソームに取り込まれます。
3)M蛋白を使って脱殻し、インフルエンザウイルスのRNAが核に取り込まれます。
4)ウイルスゲノムの複製と、リボゾームでのウイルス蛋白合成がなされます。
5)複製されたウイルスゲノムとウイルス蛋白が合体した子孫ウイルスが細胞膜表面に出ます。
6)細胞表面のシアル酸と、結合したウイルスのHAをノイラミニダーゼ(NA)を用いて切り離し、気道に放 出されます(出芽)。

NA阻害剤は、この6)の過程をブロックすることで、増殖したインフルエンザウイルスを放出しないようにして、感染細胞を増やさないようにしています。

●NAの効果   AはNA阻害剤なし          BはNA阻害剤あり

感染した細胞で増殖したウイルスは、宿主細胞表面のシアル酸とウイルスの結合を切り離して出芽します(A)が、NA阻害薬の存在下ではその結合が切り離せないため出芽できず、細胞表面で凝集し、塊状となっています(B)

畠山修司ほか:化学療法の領域21(12), 1721-1728, 2005

●NA阻害剤耐性獲得のメカニズム

下図の左の図の様にNA蛋白質の活性部位はポケット状になっており、NA阻害剤はシアル酸に成りすましてこのポケットに嵌まり込んで蓋をしてしまうことでNA活性を阻害し、抗ウイルス効果を発揮します。このポケット部分に特異的なアミノ酸変異が起こり、ポケットの形が変化するとNA阻害剤が結合しにくくなり、耐性を生じます。

ポケットの形を変化させる変異には大きく分けて2つあります。
1)ポケットの骨組みを形成するアミノ酸群に起こる変異 【骨格部位変異】
2)ポケット内にある触媒作用を行う部位(ノイラミニダーゼの活性部位)の変異 【触媒部位変異】
です。


坂井優子:Virus Report 1, 31-37, 2004

Anne M:N Engl J Med. 353(25), 2633-2636, 2005

【骨格部位変異】
タミフルの場合は、大きな側鎖(疎水基)をもつため、これに対応するため、特別な窪みをウイルスに作ってもらう必要があります。しかし、このようなごまかしは長い間続かず、ウイルス側は突然変異によって対抗し、タミフル耐性を生じます。 一方、リレンザの場合はタミフルのような大きな側鎖は無いので、特別な窪みをウイルスに作ってもらう必要はありません。従ってリレンザは、ウイルスに対する感受性を長く維持し易くはあります。

骨格部位変異型の耐性ウイルスは緩やかな耐性となりますが、ヒトからヒトへの伝播能力は保持すると考えられています。

【触媒部位変異】
リレンザはguanidino基がノイラミニダ−ゼ活性部位に強力に結合し活性を阻害します。しかし、その活性部位自体が変異をすると強い耐性を獲得します。しかし、動物実験の結果では、ヒトからヒトへの伝播能力は弱いといわれています。

●型・亜型ごとにみられる典型的な耐性マーカーのアミノ酸置換部位

型・亜型 耐性マーカー 変異部位 薬剤感受性
リレンザ タミフル
H1N1(Aソ連型) H275Y
(H274Y)
骨格部位 感受性 耐性
H3N2(A香港型) E119V 骨格部位 感受性 耐性
R292K 触媒部位 耐性 耐性
B R150K
(R152K)
触媒部位 耐性 耐性
D197N
(D198N)
骨格部位 耐性 耐性

Ferraris O et al,J Clin Virol 2008;41:13-19

●治療はどうする。

 現在、話題となっているH1N1のAソ連型は骨格部位変異なので、タミフルではなく、リレンザを用いれば治療は十分です。リレンザが自力で吸うことが出来ない幼小児ではネブライザーを用いて吸入をすると治療は可能です。当院では生食1mlにリレンザを懸濁して吸入させています。
 今後、問題になるのは触媒部位変異が起こった場合の治療ですが、これは新薬の開発待ちです。
間に合わなければ麻黄湯で治療することになるでしょう。