咳喘息




咳喘息は最近増えている病気です!

咳喘息(cough variant asthmaCVA)は、ゼーゼー、ヒューヒューや呼吸困難がなく、慢性に咳だけが続く病気です。咳喘息は正式な喘息ではありませんが、喘息の前の段階と考えられています。
原因はよくわかっていませんが、
最近、非常に増えている病気で、多くはかぜに続いておこります。かぜの後に3〜4週間以上咳が続いたら、この病気を考える必要があります。


咳喘息の特徴

1.  ほかに原因となる病気がないのにいつまでも咳だけが続く
2.  咳は数ヶ月から、ひどい場合は1年以上続くことがある
3.  かぜの後におこることが多い
4. . ゼーゼー、ヒューヒューや呼吸困難はない
5.  ほとんど痰はでない
6.  咳は夜間から明け方にかけてでることが多い
7.  冷たい空気やタバコの煙を吸うと咳き込みやすい
8.  会話、電話、運動などのときに咳き込みやすい
9.  かぜ薬や咳止めを飲んでも効かない
10.  気管支拡張薬が有効

その他の参考事項  胸部レントゲン検査で異常がない
 アレルギー素因のある人に多い
 女性に多い(男:女=1:2)
 再発を繰り返すこともある

咳喘息特有な所見があるわけではないので診断が困難な場合もあります。
そのため、気管支拡張薬が有効であることから咳喘息と診断する場合があります。
なお、咳喘息では気道過敏性の亢進を認めますが、軽症喘息患者よりも正常値に近いと言われています。
咳喘息は、喘鳴や呼吸困難がなく、痰を伴わない咳(乾性咳)が数週間以上続き、気管支拡張薬が有効であることが特徴ですが、気管支拡張薬でも症状が軽減しない場合もあります。
検査所見で、喀痰および血液中の好酸球の増多、血清IgE値の上昇が見られる場合があります。喀痰および血液中の好酸球の増多から、咳喘息でも喘息と同様に気道の炎症(好酸球を中心とした炎症)が起こっていると考えらていれます。
咳喘息は一般的に女性に多い傾向があります。
また、運動で咳が誘発されることもあります。


 

「咳嗽に関するガイドライン」における咳喘息の診断基準(日本呼吸器学会)

日本呼吸器学会では2005年9月に「咳嗽に関するガイドライン」を発表しました。この内容は医師向けのものですが、咳喘息の診断基準を以下にそのまま記載します。
なお、「咳嗽に関するガイドライン」では、3週間以内の咳を
急性咳嗽、3〜8週間の咳を遷延性咳嗽、8週間以上の咳を慢性咳嗽と分類し、急性咳嗽の原因は多くの場合呼吸器感染症であり、咳嗽の持続とともに非感染性疾患による遷延性咳嗽、慢性咳嗽の頻度が増加するとしており、遷延性咳嗽の一部と慢性咳嗽では感染症以外の原因による咳嗽としています。言うまでもなく、咳喘息は感染症以外の原因による咳嗽になります。
一般の方には、気道過敏性、咳感受性などの医学的専門用語が使われていますので、少し難しいかも知れませんが、最初に記載した「咳喘息の特徴」を基本にして参考していただけ;ればと思います。

咳喘息の診断基準(下記の1〜7のすべてを満たす)


1.  喘鳴を伴わない咳嗽が8週間(3週間)以上持続する
 聴診上wheezeを認めない
2.  喘鳴、呼吸困難などの喘息の既往を認めない
3.  8週間以内に上気道炎に罹患していない
4. . 気道過敏性の亢進 (注1)
5.  気管支拡張薬が有効 (注2)
6.  咳感受性は亢進していない (注3)
7.  胸部X線で異常を認めない
                        wheeze=ぜいぜいいう音

注1: 気道過敏性亢進の参考値は、メサコリンを用いたDmin<12.5units,
PC20-FEV1<10mg/dl
注2: 気管支拡張薬の効果は、β2刺激薬の経口、吸入による評価が望ましい.また、気管支拡張薬の効果判定は客観的評価(VAS、Symptom scoreなど)によることが望ましい.
注3: 咳感受性は、亢進していないとする報告と、治療により低下する報告があるが、純粋な咳喘息では亢進していない.咳感受性については今後の検討課題である
注4: 末梢気道狭窄の関与を示す報告がある。時にFEV1やFEV1/FVCの低下を認めることもある.


咳喘息の簡易診断(下記の1〜2のすべてを満たす)


1.  喘鳴を伴わない咳嗽が8週間(3週間)以上持続する
 聴診上wheezeを認めない
2.  気管支拡張薬が有効 

参考所見
1) 喀痰・末梢血好酸球増多を認めることがある(特に前者は有用)
2) 気道過敏性が亢進している

以上が「咳嗽に関するガイドライン」における咳喘息の診断基準となりますが、私自身は咳の期間が3〜4週間以上であれば咳喘息を考慮するようにしています。



治療

風邪薬、抗生物質、咳止めは効果がありません。
気管支拡張薬、吸入ステロイド薬、抗アレルギー薬が有効ですが、確実な効果があるのは
吸入ステロイド薬です。
咳喘息は気管支拡張薬が有効なことが特徴ですが、気管支拡張薬で軽減しても消失する患者さんは少なく、吸入ステロイド薬を必要とする場合が多くあります。
気管支拡張薬、吸入ステロイド薬でも効果が上がらない場合、抗アレルギー薬を使用することもあります。
咳喘息で症状のひどい場合、短期間に限って経口ステロイド薬を使用する場合がありますが、ほとんどの場合、吸入ステロイド薬で改善が見られます。(咳喘息で長期にわたって経口ステロイド薬を使用することはありません)
咳喘息は喘息への移行を防ぐという観点から、早期に吸入ステロイド薬を使用して気道の炎症を抑えることが重要です。
咳喘息で吸入ステロイド薬をいつまで続けるのかということに関しては、まだ十分確立された意見はありません。患者さんの状況にもよりますが、私のところでは、症状が改善しても、最低1〜3ヶ月(できれば3ヶ月)は続けるように指示しています。いろいろ検討しましたが、1ヶ月だけ使用した患者さんの再発率はかなり高く、3ヶ月使用した患者さんの再発はかなり低いことが分かり、最近では「3ヶ月間」続けるように指示しています。しかしながら、咳症状が改善すると「治った」ということで、「1ヶ月目」で受診しなくなる患者さんがかなりあるのが現状で、再発して受診されることもしばしばです。
なお、患者さんによっては半年以上続ける必要がある場合もあります。
先般の中日新聞(2005.11.18:東京新聞)に木原病院の木原令夫先生が咳喘息について答えられていましたが、先生は「約3〜6ヶ月続けてもらう」と答えられております。続けられれば先生が仰られている期間が適切かと思います。
喘息への移行を予防するために、吸入ステロイド薬を長期に使用する場合もしばしばあります。
咳喘息における吸入ステロイド薬の使用は「咳症状の治療」とともに「喘息への移行を予防する」と意味があります。



経過

多くは治療によって治りますが、一部で非常に治りにくい場合があります。
適切な治療をしないと
喘息に移行(約30%)することもあります。また、再発をくり返すこともあります。
なお、咳喘息とまったく同様の症状で、気管支拡張薬が効果のないものをアトピー咳嗽といいます。この場合、ヒスタミンH1拮抗薬(ザジテン、アゼプチン、ニポラジン、セルテクト、アレジオンなど)が有効と言われています。(吸入ステロイド薬も有効です)
なお、アトピー咳嗽では気道の過敏性は認められず、喘息に移行することもないないと言われています。
咳喘息とアトピー咳嗽を一緒に考えると、症状が同じだけに混同しかねませんが、「咳嗽に関するガイドライン」におけるアトピー咳嗽の診断基準についても記載しておきます。

アトピー咳嗽の診断基準「咳嗽に関するガイドライン」(日本呼吸器学会)

アトピー咳嗽の診断基準(下記の1〜8のすべてを満たす)


1)  喘鳴や呼吸困難を伴わない乾性咳嗽が8週間以上持続
2)  アトピー素因を示唆する所見(注1)または誘発喀痰中好酸球
  増加の1つ以上を認める
3)  気道可逆性が陰性(注2)
4) . 気道過敏性が正常範囲
5)  咳感受性が亢進
6)  気管支拡張薬が無効
7)  胸部X線に咳嗽をきたしうる異常所見を認めない
8)
 呼吸機能が正常
                        wheeze=ぜいぜいいう音
注1: アトピー素因を示唆する所見:
(1)喘息以外のアレルギー疾患の既往あるいは合併
(2)末梢血好酸球増加
(3)血清IgE値の上昇
(4)特異的IgE陽性
(5)アレルゲン皮内テスト陽性
注2: 十分量の気管支拡張薬投与による1秒量の増加率が10%以下
参考所見
1) 気管・気管支生検組織に好酸球陽性
2) 気管支肺胞洗浄液中に好酸球増加なし
3) ヒスタミンH1受容体拮抗薬または/および吸入ステロイド薬にて
咳嗽発作が消失

アトピー咳嗽の簡易診断基準(下記の1〜8のすべてを満たす)


1)  喘鳴や呼吸困難を伴わない乾性咳嗽が8週間(3週間)以上
 持続
2)  気管支拡張薬が無効
3)  アトピー素因を示唆する所見(注1)または誘発喀痰中好酸球
 増加の1つ以上を認める
4) . ヒスタミンH1受容体拮抗薬または/および吸入ステロイド薬
 にて咳嗽発作が消失

注1: アトピー素因を示唆する所見:
(1)喘息以外のアレルギー疾患の既往あるいは合併
(2)末梢血好酸球増加
(3)血清IgE値の上昇
(4)特異的IgE陽性
(5)アレルゲン皮内テスト陽性





慢性に咳が続くとき考える必要のある病気
1.  咳喘息
2.  アトピー咳嗽
3.  かぜ症候群後咳嗽慢性咽喉炎
4.  副鼻腔気管支症候群
5.  胃食道逆流
6.  薬剤(高血圧治療薬:ACE阻害薬)
7.  その他
  肺癌、気管支結核、慢性気管支炎、喘息など



診断が難しい咳喘息
咳喘息は非常に多い病気ですが、その診断は大変むつかしく、特有な所見がないために治療によって診断する場合が多いというのが現状です。
すなわち、痰を伴わない咳(乾性咳)が数週間以上続き、気管支拡張薬または吸入ステロイド薬で効果があれば、まず咳喘息と言うことになります。
咳喘息は気管支拡張薬が有効と言うのが特徴ですが、私のところでは、吸入ステロイド薬で明らかな効果があれば咳喘息と診断するようにしています。
痰を伴わない咳が続く以外に、喘鳴があったり、呼吸困難があれば咳喘息ではなく、喘息と考えるべきだと思います。咳喘息が話題になっているということもあり、喘息であるのに咳喘息と診断しているケースは少なくありません。
咳喘息と考えがちな病気に副鼻腔炎(蓄膿)による副鼻腔気管支症候群がありますが、この場合は咳以外に、痰を伴うことが多く、後鼻漏(鼻汁がのどに垂れる)、鼻汁、咳払いなどの症状がしばしば見られます。したがって、副鼻腔炎が考えられる場合には耳鼻咽喉科医の診察が必要となります。
その他、慢性に咳が続く病気としては、かぜ症候群後咳嗽、慢性咽喉炎、慢性気管支炎、びまん性細気管支炎などの気管支病変、肺癌、気管支結核、薬剤、胃食道逆流(逆流性食道炎)などがあげられます。したがって、吸入ステロイド薬を使用しても効果がないときは、このような病気も考える必要があります。


増え続ける咳喘息
当院では喘息を中心に診療していますが、咳喘息で受診される患者さんの数が年々増加しており、最近では、咳喘息の初診の患者さんの数は喘息の初診の患者さんより多くなっているほどです。感覚的には若い女性に非常に多いような気がします。
咳喘息に対し当院では吸入ステロイド薬を積極的に使用していることもあり、患者さんの経過は非常に良好ですが、症状が改善するため患者さんが早めに治療を中断してしまうことが多く、
再発する患者さんをしばしば見受けます
ただ、吸入ステロイド薬を積極的に使用しているせいか、咳喘息から喘息に移行したという患者さんはほとんど経験していません。
とにかく、最近は「かぜをひいてから咳が止まらなくなった」という患者さんが非常に多いです。そして、
咳喘息の診断・治療の重要性を感じている毎日が続いています。
ただ、咳喘息では、咳以外に所見が乏しいため、非常に診断が難しく、苦慮するこがしばしばです。したがって、慢性に咳が続き、他の疾患が考えにくい場合、咳喘息と思われるということで治療をしております。そして、吸入ステロイド薬や気管支拡張薬で効果がない場合は、さらに、他の疾患がないか慎重に検討するようにしています。
最近、日本呼吸器学会から
「咳嗽に関するガイドライン」が発行されましたが、このガイドラインを見ると慢性咳嗽の患者さんでは、いろいろな疾患を考えらなければならず、その診断はなかなか難しいということを感じます。
咳喘息では、検査などで咳喘息と診断できるものがほとんどなく、「咳喘息と思われます」ということで治療に入らなければならない面があります。(2005.10.27)


咳喘息から喘息に移行して受診した患者さん
30代の女性の患者さんは平成15年4月に風邪にかかり咳が止まらなくなったため耳鼻科のA先生を受診したところ「アレルギー性の咳」と診断され抗アレルギー薬などの治療を受けました。しかし、症状改善せず内科のB先生を受診、そこでは「気管支炎」との診断され抗生剤などの治療を受けました。
いずれの治療でも改善せず、放置していたら時間とともに改善したそうです。
ところが、平成17年4月に風邪にかかりその後から夜間の咳が止まらなくなり、同年7月には喘鳴、呼吸困難も出現するようになり当院を受診しました。
この患者さんの場合、最初に耳鼻科を受診されたときに
「咳喘息」であったと考えられます。放置していて時間とともに改善したそうですが、このときに吸入ステロイド薬を一定期間使用しておくのがベストではなかったかと思われます。
咳喘息の患者さんがB先生のように「気管支炎」という診断をされることは良くあることで、抗生剤などの投与を受けますが、咳喘息であれば抗生剤等の治療はまったく効果がありません。
17年4月に再発されこの患者さんは、7月になって喘鳴、呼吸困難が出現するようになっており、咳喘息→いったん改善→咳喘息→喘息という経過をたどり、
咳喘息から喘息に移行したと考えられました。
すぐに、吸入ステロイド薬を投与したところ1週間後には喘鳴、呼吸困難、咳はいずれもまったく消失しています。
喘息発症後早期に受診され、吸入ステロイド薬をすぐに使用しましたので、この患者さんのの予後は非常に良いのではないかと考えています。
ちなみに、当院を受診した咳喘息の患者さんが、咳喘息移行したケースは皆無といっていいほどありません。おそらく、最初から吸入ステロイド薬を積極的に使用している結果だと思います。
咳喘息の診断は大変難しいですが3〜4週間以上咳が続き、とくに他の疾患が考えられないときは、
咳喘息を疑い、吸入ステロイド薬を積極的に使用することが重要ではないかと思います。(2005.12.4)


咳喘息は喘息に移行するのか?
当院の外来では咳喘息の患者さんが年々増え続けています。咳喘息は喘息の前段階あるいは亜型と言われ、吸入ステロイド薬が普及していなかった時代では30%が喘息に移行すると言われていましたが(吸入ステロイド薬が普及するようになっては15%前後のようです)、近頃、私自身は咳喘息と喘息は同じ病態でありながら違う病気で、咳喘息から喘息に移行した患者さんは最初から喘息であったのではないかという印象を持っています。そして、咳喘息はいつまでも咳喘息なのではないかと考えています。というのは、吸入ステロイド薬を積極的に使用していますが、咳喘息から喘息に移行したと思われる症例をほとんど経験していないからです。上に書いた患者さんも咳喘息から喘息に移行したのではなく、最初から喘息だったのではないかと思うようになりました。何年も咳喘息を再発している患者さんがいて、その都度、吸入ステロイド薬を2〜3ヶ月使用していますが、喘息に移行した患者さんは上に書いた患者さん以外ほとんどありません。咳喘息から喘息に移行したと思われる患者さんの大部分が、最初から咳優位型喘息だったのではないかと考えるようになりました。
これは、あくまで咳喘息を長く診療している私の経験からの印象で、
このように言われている専門家はいません
いずれにしても、咳優位型喘息であっても咳喘息であっても吸入ステロイド薬を積極的に使用することが重要だと思います。(2007.3.4)


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