--最近の労働判例から--


T脳・心臓疾患の労災訴訟
1.不安定狭心症の作業員に発症した急性心筋梗塞
      (京都上労基署長事件 平成18年4月28日 大阪高裁 請求認容)
2.港湾荷役作業員の作業中の突然死 (大阪西労基署長事件 平成18年9月28日 大阪高裁 )
3.客室乗務員の業務滞在中のくも膜下出血(成田労基署長事件 平成18年11月22日 東京高裁)
4.銀行の支店営業課長のくも膜下出血 札幌東労基署長事件 18年2月28日 札幌地裁
5.消防署の査察に備えて作業中に発症した急性心筋梗塞
立川労基署長(日本光研工業)事件 平成18年7月10日 東京地裁
6.労災認定基準に達しない時間外労働で労災認定 京都下労基署長事件(平成18年9月6日大阪地裁)
7.小さな会社の大きな損害賠償責任 (KYOWA損害賠償事件(平成18年6月15日大分地裁)
8.従業員の死亡は過重労働と持病が共同原因
(NTT東日本北海道支店事件 平成20年3月27日 最高裁第一小判決)
9.労災打切り後は会社に同一事由による休業補償の義務はない
(神奈川都市交通事件 平成20年1月24日 最高裁第一小判決)
10.ドラッグストア勤務の薬剤師の突然死(請求認容)
(平成19年10月5日 名古屋地裁:スギヤマ薬品事件)
11. 既往症を有する労働者の急性心筋虚血による死亡と過失相殺(破棄・差戻し)
(NTT東日本北海道支店事件 平成20年3月27日判決 最高裁小一判決)
U精神障害等の労災訴訟
1.単身赴任の出向者のうつ病による自殺
八女労基署長事件(九州カネライト事件)18年4月12日 福岡地裁
2.社員のうつ病(パワーハラスメント)による自殺
名古屋南労基署長(中部電力)事件 18年5月17日 名古屋地裁
3.派遣労働者の交代制勤務による過労自殺 (平成17年東京地裁・ニコン・アテスト事件)
4.新入社員のうつ病による自殺 真岡労基署長事件(平成18年11月27日東京地裁)
5.大手百貨店の売り場課長の自殺 (平成20年1月17日東京地裁:中央労基署長事件)
6.「うつ病で解雇」は無効 東芝に賃金支払い命令 2008年4月22日 東京地裁
Vその他の労働判例
1.店長、管理職に当たらず=「権限店内のみ」残業代命じる−マクドナルド敗訴
2.月350時間も働き、労働時間抑制に応じないパート社員の雇い止めは有効
      (平成19年1月29日東京地裁:ヤマト運輸事件)
3.違法派遣を無効とし直接雇用を命じる
      (平成20年4月25日 大阪高裁:松下プラズマデイスプレイ(パスコ)事件)
4.添乗員に残業代支払いを/「みなし労働適用できず」 (平成20年7/18 東京地裁:労働審判)
5.私傷病休職で期間満了後の「退職扱い」は無効 (平成20年1月25日 大阪地裁)
6.就業規則の変更が実質的に周知されていたとは認められない
              (平成19年10月30日 東京高裁 乙山事件)
7.残業代不払いは不法行為!3年分の支払いを命じる (平成19年9月4日 広島高裁:杉本商事事件)
8.支店長代理は非管理職 播州信金残業代訴訟判決(平成20.2.8 神戸地裁)
9.会社は現職復帰に拘泥。職種の限定がない、休職期間満了による解雇は無効
(平成20年1月25日 大阪地裁:キャノンソフト情報システム事件)
10.営業部長の割増賃金請求と年次有給休暇申請(請求認容)
(平成19年12月3日 大阪地裁:ナオタ情報通信賃金請求事件)
11.算定根拠が不明な割増賃金(請求認容)
(平成19年6月15日 東京地裁:山本デザイン事務所賃金等請求事件)
12.退職願提出しても会社都合退職として扱え (平成19年6月15日 大阪地裁:G社事件)
13.営業成績不良を理由とする社員の解雇と損害賠償(解雇無効)  
         (フリービット慰謝料等請求事件 平成19年2月28日判決 東京地裁)
14.労働協約による退職金の減額(一審判決の取消:減額認容)  
  (中央建設国民健康保険組合事件 平成20年4月23日判決 東京高裁)
15.解雇無効により支払われるべきこととなる賃金額(上告一部認容:請求認容)  
(いずみ福祉会解雇無効確認等請求事件 平成18年3月28日判決 最小三判決)

判例のポイント
T脳・心臓疾患の労災訴訟
1.不安定狭心症の作業員に発症した急性心筋梗塞
        (京都上労基署長事件 平成18年4月28日 大阪高裁 請求認容)
@ 二交代勤務の夜勤勤務で恒常的に1日12時間労働という勤務体制をとっていた。
A 夜勤は2人体制だから、2日続けて休めない。
B 50歳になってから深夜交替勤務と今までと違う梱包作業に配置換えをした。
C 深夜勤務(午後8時〜午前6時)で仮眠できる施設がない。
使用者は本人から申し出が無いとしても「年齢に即した勤務体制の検討」と「夜勤勤務の健康配慮」と具体的に「申し出による交代要員が補充できる体制」を講じる義務がある。 先頭

2.港湾荷役作業員の作業中の突然死
(大阪西労基署長事件 平成18年9月28日 大阪高裁 請求認容)
心臓疾患を有している被災者が自然経過により心臓病を発症させる寸前までは憎悪していなくてその業務の負担が高いときは 他に確たる発症因子が認められなければ業務起因性を認めるのが相当(最小 平成12年7月17日)
@ 1週間前に医師の診療と健康診断を受けて、仕事に差し支える身体の状況ではなかった。
A 重量物を不安定な足場で、夏ではしけの鉄板のうえで、久しぶりに負荷の高い作業をした。
B 他に心臓病の発症をうかがわせるもの(不眠、服薬をしなかった等)はない。先頭

3.客室乗務員の業務滞在中のくも膜下出血
(成田労基署長事件 平成18年11月22日東京高裁 請求認容)
(月45時間以下の残業で休日も確保) 業務の過重性は労働時間のみによらず、勤務の不規則性・拘束性・深夜業務を含む交替制、作業環境や精神的緊張の要因を考慮して総合的に判断する
@ 連続して乗務時間が6ケ月間で月75時間を超えている=密度の高い業務(上限900時間)
A 変形労働制で頻繁なスケジュール変更など不規則で、拘束時間も長く、深夜・徹夜・時差への対応・機内における保安やサービス業務などをこなす
B 基礎疾患で脳動脈瘤があり、食欲不振や吐き気など通常ではたえがたい疲労が蓄積していた 先頭

4.銀行の支店営業課長のくも膜下出血 (札幌東労基署長事件 18年2月28日 札幌地裁 請求認容)
労災認定基準の要件(異常な出来事・短期間の過重業務・長期間の過重業務)は満たさないが、相当因果関係はあるとされた
@ 融資課長から営業課長に配置換えで、勤務していた支店が統廃合の対象になった
A 基礎疾患(脳動脈瘤)が破裂したのは一過性の血圧上昇によるものであっても性別(女性)年齢(56才)を除けば進行を促進させるファクターは見当たらない先頭

5.消防署の査察に備えて作業中に発症した急性心筋梗塞
(立川労基署長(日本光研工業)事件 平成18年7月10日 東京地裁 請求認容)
@ 直ちに心筋梗塞を発症するような状態になく、作業に従事しなければ生きることができた
A 当日になり査察が実施されることをしり2時間で体制を整えなければならなかった。
B前回の査察で指摘された事項が改善していなかったことに強い衝撃があり、異常な出来事。先頭

6.労災認定基準に達しない時間外労働で労災認定
(京都下労基署長事件 平成18年9月6日大阪地裁)
  ・退職直前の残務整理中に発症した虚血性心疾患による死亡(請求認容)
  (従業員4〜5名の印刷会社:デザイン等の制作部主任―死亡時30歳) 上司から進行管理がうまくいっていないことを叱責され退職願を提出。10日間の残務整理中に会社で心疾患を発症し死亡した。
(6ヶ月間の残業-88時間・60時間・88時間・63時間・78時間・83時間で平均77時間)
@ 時間外の認定基準にわずかに達していないが、業務内容を総合勘案すると、心臓疾患の既往症はなく、血管病変等が長期間の業務上の過重な負荷によって、その自然的経過を超えて急激に悪化したとみるのが相当であり、業務との間に相当因果関係が認められる。
A 誤記や納期遅れが会社に多大な損失をもたらすこと、自己のスケジュール管理のまずさから同僚の応援を求めにくいなど業務自体が相当程度の大きな負荷を伴う。先頭

7. 小さな会社の大きな損害賠償責任 KYOWA損害賠償事件(平成18年6月15日大分地裁)
・26歳現場作業員の心筋梗塞による突然死(請求認容-遺族に8400万円の賠償命令)
 (熱交換機の部品製造の会社―事務員3名・工場作業員17名) 入社3ケ月後に作業中の死亡(26歳)、死亡前1週間の労働時間82時間、1ケ月332時間。業務上で既に労災認定された事件
@ 休日を与えることなく長時間の労働をさせた会社には予見可能性があった。本人の年齢や入社時の健康状態、体調不良を訴えていなかったこと、同様の労働者が病気になっていないこと等で予見可能性がなかったとはいえない
A 8月の盆休みは就業規則に休日になっており、特別な業務軽減措置にはあたらない。
B 本人が水分補給をしなかったことは心疾患のリスクファクターにはなるが、全く水分をとらなかったとは断定できない。過失相殺は認められない。先頭

8.従業員の死亡は過重労働と持病が共同原因
(NTT東日本北海道支店事件 平成20年3月27日 最高裁第一小判決)
第一審で過失相殺を主張しなかった被告は信義則に反するとして控訴を棄却した高裁判決を破棄し、「損害の全部を会社側に賠償させることは公平ではない」とした。
(事件の経過) 心臓に持病を抱える従業員が、宿泊を伴う2ケ月の研修期間の途中に急性心筋虚血で死亡したのは、会社が従業員の健康状態に十分配慮を払わなかったことが原因だとして損害賠償を請求した。(原告らは旭川労働基準監督署に労災請求を行ったが不支給とされている)
@ 裁判所は、損害賠償の額を決めるに当たり、民法722条2項の規程を類推適用して、被害者の疾患を斟酌できる(最高裁昭和63年判決)として当事者の主張がなくても、判断できるとした。
A 業務による過重な負荷が、労働者の基礎疾患を自然の経過を超えて、憎悪させ、発症にいたったと認められるときは相当因果関係(業務起因性)を肯定できる(東京海上横浜支店事件 最小1判 平成12年7.7)とした判例を踏襲しながらも、被告の不法行為の態様と程度を考慮したもの。先頭

9.労災打切り後は会社に同一事由による休業補償の義務はない
(神奈川都市交通事件 平成20年1月24日 最高裁第一小判決)
タクシー運転手が勤務中に負傷し、受給していた休業補償給付の打切り後、復職までの期間について労基法に基づく休業補償を請求した。一審は請求を棄却したが、控訴審で休業保障に支払いを認めたため、会社側が上告。最高裁は同一事由で労災補償の休業補償給付がある場合、労基法76条による休業補償は免除され、休職中であっても補償義務は無いとした。
(原審の判断と経過)
Xは平成7年乗務中に追突され、頚椎捻挫等の傷害を負った。労災で休業補償給付を受けていたが、労基署長より平成11年8月には症状が固定し治癒したとされ、9月より不支給とする決定を受けた。12年3月、会社の指定医から「試乗等を続けた上で決定すべき」との診断を受け、試乗勤務後の4月16日に復職した。Xは平成11年7月から12年4月16日までは会社の規定(=会社の指定医の診断により復職できる)により復職できなかったとして、その間の休業補償を請求した。
一審は乗務可能を示す診断書の未提出と労務提供が無かったことで請求を棄却した。原審は会社は休業を命じた以上、復職を命じるか、または従業員でなくなるまで、休業補償を支払う義務があるとした。
最高裁は原審の判断は誤りがあり、会社が復職を認めなかったことには正当な理由があり、タクシー乗務員として採用した事が明らかで、Xからの事務職としての就労申し入れを受ける義務はない。したがって、休業は使用者の責めに帰すべき事由によるものでないことが明らかであり、休業補償請求には理由が無いとした。 先頭
10.ドラッグストア勤務の薬剤師の突然死(請求認容)
(平成19年10月5日 名古屋地裁:スギヤマ薬品事件)
@ Kは平成12年3月に大学薬学部卒業後、入社。研修後5月16日に店に配属され、6月30日には薬剤師として勤務を始めた。管理薬剤師となった平成12年10月頃から業務による心的な負担が増し、体重が減少し、立ち眩みなど体調不良の状態になった。
A 13年5月には同店の店長代行の異動により、店長代行の地位に就き、同月の開店協賛セールなどで更に過重な業務が心停止発症の原因となった。
B 13年5月8日から6月6日までの労働時間は310時間(時間外138時間)で、休日は2日のみだった。交際相手には「このまま行くと本当に死ぬかもしれない」と訴えていた。同年6月7日未明自宅で就寝中に死亡した。(死亡時年齢24歳)
(安全配慮義務違反による債務不履行について)
@ 使用者は労働者を雇用し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことの無い様に注意すべき義務(安全配慮義務)を負う。
A 被告は店長を通じるなどして、過重労働の実態を十分に認識できたもの言えるし、これにより疲労やストレスなどが過度に蓄積し、労働者の心身の健康を損なう危険があることは周知のとおりであるから、被告はKの死亡について予見することが可能であった。
被告は逸失利益6692万円、慰謝料2200万円等9032万円を支払え。先頭

(労災保険金:遺族補償一時金1164万円と葬祭料69万円を控除して、弁護士費用の500万円を加えた8298万円に年5分の遅延損害金を支払え)先頭

11. 既往症を有する労働者の急性心筋虚血による死亡と過失相殺(破棄・差戻し)
(NTT東日本北海道支店事件 平成20年3月27日判決 最高裁小一判決)
業務上の過重負荷と従業員の基礎疾患が原因となって死亡(58歳)したことにつき、使用者の不法行為を理由とする損害賠償の決定について過失相殺(民法722条2項)を類推適用しなかった二審の判断に違法があるとされた例。 平成5年の健康診断で異常があり、高脂血症と診断された労働者に対し、平成13年会社はそれまでと全く異なる法人営業業務を命じ、4月から2カ月にわたる研修を実施した。研修期間中の6月7日に帰宅し、9日に墓参りに一人で出かけ、墓前で死亡していたのが発見された。 二審は一審とおなじく、会社の注意義務違反による過失を肯定し、損害賠償額(逸失利益3086万円、慰謝料2800万他)の一審判決を維持し、会社が主張した過失相殺を「一審において主張しなかったという信義に反する」として斥けていた。 最高裁は(車両追突事故損害賠償請求事件 最一判決平4.6.25)を引用し、裁判所は賠償義務者から過失相殺の主張がなくても職権をもって斟酌できるとした。(一審の段階では労働者が家族性高コレステロール血症にり患していた事実を、会社が認識していなかったことが伺われるので訴訟上の信義則には違反しない。 会社に損害の全部を賠償させることは公平でないとした)
先頭

U労災認定(精神障害等)
1.単身赴任の出向者のうつ病による自殺
              八女労基署長事件(九州カネライト事件)18年4月12日 福岡地裁 請求認容
出向後の短期間に複数業務(新規導入機械の初期設定、ISO取得の資料作成、看板塔の設置など)による心理的負荷があり、業務外の負荷は見当たらない。
@ 厚生省指針は立証責任の軽減、認定の画一性を図るための判断指針であくまでも基準
A 29年間で、細分化された専門業務のみで大きな変更はなく、今回の単身赴任の出向で、長年従事した設計管理業務から設備の保全業務にうつり広範な業務による負荷が契機になった 先頭

2.社員のうつ病(パワーハラスメント)による自殺
          
名古屋南労基署長(中部電力)事件 18年5月17日 名古屋地裁 請求認容
労働者のなかでその性格が最も脆弱であるものを基準として、業務に内在する危険を判断する
@ 被災者は自らの業務に関し、考え込んでしまったり自分で抱え込んでしまう傾向があり、業務を要領よくこなすことができないことがあった。
A 上司の課長の指導は個人攻撃をしたり人格を否定するものではなかったが厳しいものだった。
B 主任に昇格後「主任としての心構え」を何回も書き直しを指示され、月80時間を超える時間外労働に従事することで強い心理的負荷を受けた。
C 課長は仕事の集中力を欠くとして、結婚指輪をはずすように命令し、さらに強い心理的負荷を及ぼしうつ病を憎悪させた。 先頭

3.派遣労働者の交代制勤務による過労自殺
       (平成17年東京地裁・ニコン・アテスト事件) 2005/3/31 (請求認容)
       <過労自殺>東京地裁が派遣労働者に認定、全国初(毎日新聞より)
97年に就職し、ニコン熊谷製作所に送られ、昼夜2交代制で製品の最終検査を担当していたが、99年3月に自宅マンションで自殺しているのが見つかった。死亡直前の2月の1週間は2度の休日を返上し、1日平均12時間を超す労働で、クリーンルームと呼ばれる閉鎖的な空間で、ほとんど立ちっ放しの作業をしていた。
@ 正社員と同じ仕事を要求されている一方で仕事量に合わせて稼動人員の調整弁として雇用不安にさらされていた。(正社員は休んでも派遣労働者は15日間連続勤務等)
A 派遣先のニコンは、健康状態の悪化を認識できたのに、休養を取らせるなど負担軽減のための措置を怠たり、派遣元もニコンから就労状況の報告を受け、安全配慮義務を負担していた。

違法派遣で自殺と賠償命令 ニコンなど2社に東京高裁(平成21年7月28日 ニコンアテスト事件)
光学機器大手ニコンの工場に派遣されていた男性が自殺したのは、劣悪な勤務環境によるうつ病が原因だとして、遺族が、同社と名古屋市の業務請負会社に計約1億4,000万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は28日、両社に計約7,058万円の支払いを命じた。
両社に計約2,488万円の支払いを命じた05年3月の一審東京地裁判決を変更。「製造業への派遣を禁止していた当時の労働者派遣法に反していた」と言及した。 弁護団によると、派遣労働者の過労自殺で、派遣先と派遣元双方の賠償責任を初めて認めたとみられる一審判決を追認した。先頭

4. 新入社員のうつ病による自殺 真岡労基署長事件(平成18年11月27日東京地裁 請求認容)
   6カ月の新入社員研修の後、単独で取引先への食品販売等の業務を担当。担当後3カ月間でうつ病を発症した食品営業担当者の自殺
@ 入社半年の新入社員にとって、一人で商談に臨む心理的負荷と勤務時間の長時間化(3カ月平均で1月112時間〜150時間)で睡眠不足に陥っていたとみられる。
A 業務目標の未達成や社用での交通事故が重なり、業務上の心理的負荷は相当強いものがあったと認められ、業務外での心理的負荷や個体的要因は認められない。 先頭

5.大手百貨店の売り場課長の自殺(平成20年1月17日東京地裁:中央労基署長事件)
約8000万円の商品消失とその調査負荷によるうつ病発症が主因で労災と認定した。 監督署長は自殺当時精神障害を発症していた業務上の事実(持ち帰り残業は命令に基いていない)はみとめられないとして支給しなかったが、裁判所は、伝票類を自宅に持ち帰って深夜、早朝まで照合作業をしたが、原因は解明できなかったことを挙げ、「同種の労働者と比べ過大な業務だった」として自殺が業務上であることを認めた。
・自殺が業務上と認められる為には、「自殺の原因となった精神障害と業務の間に相当因果関係があること」「精神障害により正常な認識能力が著しく阻害され、または自殺を思いとどまる精神的な抑制が著しく阻害されている状態だったこと」が必要 先頭

6.「うつ病で解雇」は無効 東芝に賃金支払い命令 2008年4月22日 東京地裁
東芝(東京都港区)の工場で働いていた重光由美さん(41)が、長時間労働が原因でうつ病を発病したのに解雇したのは違法だと訴えた訴訟で、 東京地裁(鈴木拓児裁判官)は22日、解雇を無効とし、未払い賃金など約2700万円を支払うよう東芝に命じる判決を言い渡した。(読売新聞)
(事件の経過) 原告X(女性)は平成2年に電気機械器具製造のY社に入社して、ラインの立上げプロジェクトリーダー(A業務)を担当していた。12年6月には工場の診療所で不眠症と診断され、12月には民間の神経科で神経症と診断され薬剤を処方された。12月以降業務トラブルが続き、3月には時間外超過者健康診断を受診し、不眠等を申告した。
13年4月には課長Pの指示で新業務を追加されたが、一部を断った。6月の超過者健診で3ケ月合計254時間の残業時間を申告し、6月下旬には、Pに、新業務はできないと申し入れ了承されたが後任は決まらなかった。7月には、PにA業務の新リーダーを決めるよう求めたが、聞き入れられなかった。
9月から有休を使い、10月から診断書を提出し、欠勤を始めた。 13年8月から、Y社はカウンセリングをのべ20回、受診させている。Xは平成14年5月産業医の許可を受け、午前中だけの職場復帰をし、職場変更を申し入れたがY社は応じなかった。 Xは再び長期欠勤をした。
Y社は平成15年1月就業規則により休職を発令、16年7月主治医の見解を求めた。Xは職場復帰出来ない旨主張し、主治医は治療の必要を認めた。Y社の担当者は休職期間満了前の職場復帰を求め、説得したが、Xは応じず、Y社は9月9日付けで解雇した。 Xは労災申請をしたが、不支給処分を受け、審査請求でも却下されている。 Xは業務上の疾病による解雇だとして、不法行為に基づく慰謝料2,224万円を求め提訴した。
@ パソコン等からの就労実態は、質的に肉体的精神的負担を感じさせるもので業務上だとした。
A 平均残業時間が60時間以上でストレス強度が増加する。
B女性はうつ病にかかりやすい。   
(判決は13年4月から面談を始めた8月までを限定して債務不履行とし、解雇以降判決までの給与835万円を支払うよう命じた)
先頭

Vその他の労働判例
1.店長、管理職に当たらず=「権限店内のみ」残業代命じる−マクドナルド敗訴
日本マクドナルドが店長を管理職扱いにして残業代を認めないのは違法として、埼玉県内の直営店店長高野広志さん(46)が約 1,300万円の未払いの残業代と慰謝料などを求めた訴訟の判決で、東京地裁は 28日、直営店店長について「管理監督者には当たらない」と述べ、残業代など計約 750万円の支払いを命じた。
判決の根拠は次の3点です。
(1) アルバイトの採用権限はあるが、将来、店長などに昇格する社員を採用する権限がない
(2) 一部の店長の年収は、部下よりも低額
(3) 労働時間に自由がない
どこの会社でも当てはまる内容です。管理職の権限や待遇の見直しが必要です。先頭

2. 兼業勤務で月350時間も働き、労働時間抑制に応じないパート社員の雇い止めは有効           (平成19年1月29日東京地裁:ヤマト運輸事件)
会社で午後10時から翌日の午前6時まで勤務後、他社で午後3時から午後9時まで勤務し、さらに派遣社員として働くことになったパート社員に、会社は労働時間短縮を申し入れたが応じないので雇い止めにした。原告は長時間労働による健康や安全が損なわれるおそれがあるとして雇い止めをするのは権利に濫用だと主張した。
裁判所は雇い止めには理由があるとし、原告の地位確認請求を棄却した。
@ 本件雇用契約は更新4回で1年7ケ月になるが、「更新する場合がある」「契約期間」を明示した契約書が作成され、原告と会社が記名押印されている。
A 会社が長時間労働の短縮を求めたにもかかわらず、原告が受け入れなかったのはパート社員の解雇事由(企業理念を逸脱し、会社の信用を失墜・各号に準ずる事由)に該当するとした。 先頭

3.違法派遣を無効とし直接雇用を命じる
(平成20年4月25日 大阪高裁:松下プラズマデイスプレイ(パスコ)事件)
 業務委託契約で働いていた原告が、違法派遣にあたるとして、いったんは期間雇用者として直接雇用されたが、その後雇い止めをされたことに対して、雇用契約上の地位確認等を求めたもの。一審は労働者の請求を棄却したが、本件判決では会社は労働者を直接指揮監督しており、賃金支払いも実質的に行うなど、使用従属関係を認め、直接雇用の他慰謝料の支払い等を命じた。
@ 原告は被告会社従業員の指示を受け、混在して共同作業に従事していた。
A 違法派遣であり労働契約自体が無効だから、派遣法40-4項(雇用申込義務)の適用はない。
(労働条件は双方の合意によって決められるもの、信義則による雇用義務は生じない)
B 臨時業務ではなく雇用は継続するという期待があり、更新拒絶の濫用として許されない。先頭

4.添乗員に残業代支払いを/「みなし労働適用できず」 (7/18 東京地裁:労働審判)
阪急トラベルサポート(大阪市)に登録する派遣添乗員の女性が、会社の指揮・監督が及ばず所定労働時間働いたとみなす「事業場外みなし労働制」を適用され、残業代を支給されなかったのは不当と申し立てた労働審判で東京地裁は18日、「みなし労働は適用できず、残業代を支払うべきだ」との審判を下した。申し立てていたのは、東京都の大島由紀さん(44)。
東京東部労組によると、地裁は「添乗員は日程表や日報などで労働時間を指示されており、労働時間算定は可能。みなし労働制は適用できない」と判断した。 審判は、昨年12月と今年1月に添乗した海外ツアー計19日間、約85時間分として請求した残業代約20万円のうち、約14万円を認めた。ツアー中の自由行動は労働時間として認めず、機内時間のうち離陸後と着陸前各1時間は労働時間とした。
阪急トラベルサポートは「審判の内容には承服し難く、異議を申し立てたい」としている。先頭

5.私傷病休職で期間満了後の「退職扱い」は無効 (平成20年1月25日 大阪地裁)
<事件の経過>
被告はコンピューター利用技術の開発・販売をおこなっており、原告は平成6年に入社、プログラマーとして勤務し、平成14年6月に自律神経失調症と診断され欠勤を開始。その後他診療機関でクッシング症候群、副腎皮質低下症候群との診断を受けた。平成15年9月に就業規則での欠勤期間が満了した為、最長2年間の休職期間に入った。
原告は、平成16年8月と17年3月に労務可能との診断を受け、復職を申請したが被告は認めなかった。被告は平成17年7月休職期間満了の雇用契約終了を通知し、退職扱いとした。原告は理由の無い就労拒否は違法だとして地位確認と未払い賃金の支払いを求めた。
<ポイント>
被告の主張は@医師の診断書は直ちに原告の復職可能の根拠にならない、16年8月時点には再発の可能性があった。A休職満了時に原告からの復職の意思表示はなかった。B復職は残業時間が多い開発部門に限られる・・
大阪地裁はいずれも斥けている。@2人の担当医からの診断書が出ている事は、少なくとも休職期間満了時には就労可能な程度に回復していた。A診断書を提出し復職の意思を示していた、「退職を前提に話し合った」という被告の主張は、原告の承諾の無いもので、具体的名退職条件などの証拠がない。B原告の雇用契約には職種は業務内容の特定はなく、現職での就労が困難ならしばらくは 他部門への配置するなど負担軽減措置をとることもできたはずだとして、被告の配慮不足を糾弾している。
休職期間満了時に債務の本旨に従った労務の提供があったとして、平成17年7月以降の賃金の支払いを命じた。先頭

6.就業規則の変更が実質的に周知されていたとは認められない
       (平成19年10月30日 東京高裁 乙山事件)
<事件の概要>
平成15年3月、適格退職年金を廃止し、10年の猶予期間を設けて中退共などへの制度移行、役職定年を55歳から60歳に変更し、退職金規定も変更する説明を課長以上が出席する経営会議にて実施した。
その後定例の全体朝礼において全社員に対し新制度への変更に関する説明を実施したが、2週間たっても問い合わせが無く、4月に再度実施した全体朝礼でも質問が無く、その場で社長から 「従業員全員が理解し、同意したと解釈する。従業員代表を選出して意見書を提出して欲しい」旨述べて、総務課長が推薦され、全員挙手で選任された。総務課長は異議が無い旨の意見書を提出した。
原告は平成15年11月に退職し、中退共等からの退職金294万円を受領したが、変更前の退職金1074万円との差額の支払いを求めて提訴した。
一審は労基署への届け出は就業規則の効力発生要件とはならず、朝礼等での周知がなされていたとして、原告の請求を棄却し、原告は高裁に控訴した。
<判旨>従業員への実質的周知されていたとは認められない。就業規則の変更は無効。
@経営会議、全体朝礼での説明では、旧制度からの変更で不利益になることが告げられていない。
A全体朝礼で直ちに理解することは困難であり、説明文書を配布した上での詳細な説明会等が必要。
B全体朝礼で誰も質問しなかったからといって、実質的周知が図られたわけではない。
<その他のポイント>
@変更された就業規則には「退職金は中退共等で支払う」としただけで、金額については平成17年4月まで作成されていないし、従業員に対しその説明もされていない。
A平成12年退職金規定制定分は届け出済みなのに、今回の変更分は労働基準監督署に届出をしていなかった。先頭

7.残業代不払いは不法行為!3年分の支払いを命じる
(平成19年9月4日 広島高裁:杉本商事事件)
 退職した社員が時効消滅分を含む時間外割増賃金を請求。一審は労基法違反を認めたが、不法行為に基づく損害賠償請求を棄却した為、控訴した。(請求認容)
@ 営業所において平成16年11月まで出勤簿に出退勤時刻を故意に記録していなかった。労働基準局の指摘により記録するようになっても、所長から実態と異なる時刻を記録するように指示する等故意にもとづく悪質な事案だ。
A 営業所の勤務実態から、管理者は時間外勤務を黙示的に命令したといえる。
B 管理者は部下の勤務時間を把握し、時間外勤務について割増請求手続きを行わせるべき義務に違反している。
割増賃金の労基法上の請求権の時効期間は2年だが、不法行為にあたる為1年分多い割増賃金の支払いが必要になった事件。先頭

8.支店長代理は非管理職 信金残業代訴訟(平成20.2.8 神戸地裁)
 播州信用金庫(本店・姫路市)の加古川市内の支店に勤務し、二年前に支店長に次ぐ「代理」の役職で退職した山内勉さん(55)=兵庫県稲美町=が「管理職とされた『代理』の実態は管理監督者ではなく、残業代を払わなかったのは違法だ」として、未払い分として約三百八十四万円と同額の制裁金の計約七百七十万円の支払いを求めた訴訟の判決が八日、神戸地裁姫路支部であった。
中島栄裁判官は原告側の主張をほぼ認め、同金庫に残業代など約四百五十万円の支払いを命じた。  判決理由で中島裁判官は「原告は出退勤が自由でなく、部下の正式な人事評価もしていない。給与も支店長の約半分で、経営者と一体的な立場で時間外手当を支給しなくてよい『管理監督者』とはいえない」と認定。代理在任中の残業代三百五十一万円と付加金百万円を支払うよう命じた。
 この支店にはタイムカードはなく、支店長や代理ら管理職三人には出勤簿もなかったが、判決では、原告がほぼ毎朝七時半に出勤しており、一カ月の残業時間が三十八-六十八時間あったことが金庫の開閉記録から認定された。山内さんは「かつての勤め先を訴えるのは心苦しかったが、残業代カットのための管理職昇進が目立つ。金融機関の順法意識が低いのは問題だ」と話している。(神戸新聞より)8/28 大阪高裁で和解が成立しています。 先頭

9.会社は現職復帰に拘泥。職種の限定がない、休職期間満了による解雇は無効
(平成20年1月25日 大阪地裁:キャノンソフト情報システム事件)
原告は平成6年4月に雇用され、以来コンピューターのプログラマーとして勤務。平成14年6月から自律神経失調症を理由に欠勤を続け、平成15年7月から最長2年間の休職に入った。休職規定により、休職中の賃金は支払われず、期間満了の場合は退職とするとされていた。
原告は平成16年7月と翌年3月に書面で復職を申請したが、いずれも認められていない。会社は同年7月に期間満了による退職扱いとした。
@ 休職制度は一定期間、解雇権の行使を制限して労働者を保護するものであるから、使用者が復帰することが容認できない理由を主張立証して始めて自然退職の効果をもつ。(エールフランス事件)
A 現場作業に係わる労務の提供ができなくても、労働契約上その職種が限定されていたとは言えず、事務作業の労務提供は可能であり、かつ申し出ていた場合は、同人の経験等に照らし、配置される現実的可能性を検討した上で、債務の本旨に沿った労務提供を判断(片山組事件)
(ポイント)
@ いずれの医師も通常の労務に服することには支障が無いとしていたが、「現職に復帰程度に回復していない」として、使用者はこれを否定した。
A 書面での復職申請と診断書の提出に対して「退職を前提に話し合った」との会社側の主張は具体的な退職条件などを詰めた証拠がない。
B 会社の事業規模からして、しばらくは負担の軽減措置をとることも可能だった。 先頭
10.営業部長の割増賃金請求と年次有給休暇申請(請求認容)
(平成19年12月3日 大阪地裁:ナオタ情報通信賃金請求事件)
控訴人は本人を含めて正社員は4人で、営業は社長と控訴人だけで部下はいなかった。部長としての営業活動は取引先との顔つなぎ程度であり、経営上重要な営業活動や決定を自らの判断で行うだけの権限は与えられていなかった。 控訴人には雇用契約に勤務時間と休日の定めがあり、控訴人はタイムカードを打刻し日報を社長に提出していた。
8月31日付け退職届けで有給休暇残日数21日分を請求したが、会社は8月21日から31日までの賃金11万7032円を支払ったに過ぎない。
(裁判所の判断)
@ 控訴人は29万2580円の賃金を得ていたものの、従業員の中には20万円の基本給が支給されている者がおり、決して高くない。
A 会社は定年を超える年齢だから管理監督者でなければ得られない賃金だと主張するが、管理職手当は6万円に過ぎず時間外の対価として見合うものではない。
B 控訴人はこれまで時間外賃金を請求しなかったが、振替休日で精算し、残りは期末で精算するという話になっていた。
C 平成16年5月から17年8月まで時間外・休日労働をしたことはタイムカード等で明らかである。管理監督者とは認められないから、時間外賃金と有給休暇申請分の給料に、 賃確法に基づく年14.6%の遅延損害金を加え、支払いを認定するのが相当である。 先頭
11.算定根拠が不明な割増賃金(請求認容)
(平成19年6月15日 東京地裁:山本デザイン事務所賃金等請求事件)
原告は広告等の企画制作を業とする会社にコピーライターとして平成15年3月から勤務し、平成17年8月20日に解雇された。勤務時間は10時から18時までだったが、仕事の性格上残業も多く、不規則な勤務をしていた。会社が出退勤管理を十分に行っていなかったので、原告は自分のメモで残業手当の請求をした。
判決は原告の記録を参考に支払いを命じた。
@ 平成17年1月までは給与明細書は基本給のみで、会社は基本給のなかに割増賃金を含めて支給することに従業員の同意を得ていたと主張するが採用することはできない。
A 平成17年2月以降は基本給を月40時間分の割増賃金分(業務手当)と深夜手当等に分けて支給したが、原告にとっては基本給の減額は不利益変更であり、原告の同意もないので認めることはできない。
B 時間管理はタイムカードによっているが、退社時刻が一定時刻を過ぎた場合は翌日の出勤時間に打刻される等で退勤時間が空白になり、手書きになる。使用者は労働者の勤務時間を把握する義務があり、会社は手書きを放置してきたので実態と認めるのが相当である。
C 会社は自己の裁量により勤務時間を管理できるというが、依頼者である広告代理店の指示にしたがうことが業務命令だから、原告を管理監督者だと主張することはできない。
原告の請求908万円2699円と付加金500万円にそれぞれ遅延損害金を加えて支払え。 先頭
12.退職願提出しても会社都合退職として扱え (平成19年6月15日 大阪地裁:G社事件)
Bは退職強要による会社都合退職をしたにも拘わらず、自己都合退職として処理されたために、自己都合退職金しか支給されず、雇用保険の支給期間も短縮されたとして、差額の支払いを求めた。
A社は勤務態度の不良をたびたび指摘し、反省文等を書かせたりして指導していた過程でBが退職願いを提出したもの。
判決は会社都合とし、自己都合での退職金の計算や離職票の作成で過失があり不法行為にあたるとした。会社都合とした理由として
@ 退職願はBが自ら書いて持参したのではなく、会社の定型用紙に上司が見ている前で書き提出した。 A 業務態度の悪いBに業を煮やした会社が、解雇をほのめかしながら退職を進めた結果でBは解雇される前に退職を選んだ。
B Bは子どもに学費がかかり住宅ローンもあり、自主的に退職を申し出るとは考えられない。
会社は退職願を直ちに受領し、翻意を促すことも一切無かったから、Bの退職は会社の利益になるものと評価できる。ただし、Bの業務態度にてらせば懲戒解雇も予測でき、虚偽の事実で退職強要とは言えないとした。 会社は懲戒解雇の手続きを取らなかった以上退職金額を高くすることの合理性を否定する理由にならない。つまり退職強要ではないが、会社都合として処理すべきところを自己都合として処理した不法行為にあたる。 先頭
13.営業成績不良を理由とする社員の解雇と損害賠償(解雇無効)  
         (フリービット慰謝料等請求事件 平成19年2月28日判決 東京地裁)
平成17年8月に雇用されたが、販売実績を上げられず18年2月に4月末までの給与支払いを条件に退職勧奨を受けた。以降業務から外れ、就職先を探したが見つからず、6月末まで延長の申し入れをし、会社の了解を得た。引き続き就職先を探したが見つからず、5月中旬に再度延長の申し入れをしたが、会社は了解せず同月31日付けで30日後に解雇する旨通知した。
原告は解雇不当として損害賠償と慰謝料の支払いを求めて提訴した。
@ 合意退職する旨の合意は、確約が書面等で交わされていない為、いずれも認定できない。
A 被告は解雇理由として営業能力不足、営業方針への批判等をあげるが、2月以降原告は業務についておらず、5月末の解雇時に解雇されるほどの事情は認められない。
B 損害算定の起算日としては猶予期間が延長された5月からが公平であり、6ケ月の勤務と原告の年齢49歳からみて半年分の給与を見積もるのが相当である。 5月からの6ケ月分(60万円×6月)から、5・6月分と賞与相当分(約137万円)と、雇用保険等からの収入83万円を控除し、140万円を解雇無効による損害額とする。
慰謝料については、在籍のままの就職活動や解雇予告等に不当性は無く認められない。 先頭

14.労働協約による退職金の減額(一審判決の取消:減額認容)  
  (中央建設国民健康保険組合事件 平成20年4月23日判決 東京高裁)
退職金減額分の支払いを命じた一審判決(平19・10・5 東京地裁)が取り消され、原告の請求が棄却された例。労働条件を不利益に変更するものであっても、労働協約の規範的効力は労働組合の目的を逸脱して締結されたものと認められる場合以外は直ちには否定できない。
判断基準として@協約締結に至る経緯A当時の経営状態B協約に定められた基準の全体としての合理性を考慮するのが相当である(平9.3.27最一小判例 朝日火災海上保険事件)
1. 労働協約により、定期昇給の代わりに、退職金指数改定と勤続年数の上限設定で、3784万円余の退職金が3246万円にとどまり、差額の538万円の支払いを求めたもの。
2. 一審判決では「早期に定年退職するものに一定の配慮が必要」「不利益を被る者の意見が反映されたとは言えない」として、労働協約の拘束力を否定し、原告の請求を認めた。
3. 判断のポイントとして @ 組合は職場集会を3回開催し、原告も毎回出席し、意見を言う機会が保障されていた。 A 赤字で経費削減は不可避で、母体組織との格差もあり、規定の見直しは必要。 B 支給月数の削減幅は59名中47番目で相対的に小さい。
労働協約は労働組合の目的を逸脱して締結されたものとは認められないとした。先頭
15.解雇無効により支払われるべきこととなる賃金額(上告一部認容:請求認容)  
(いずみ福祉会解雇無効確認等請求事件 平成18年3月28日判決 最小三判決)
原告は保母として昭和48年に雇用され、平成10年10月に清掃業務11年4月に用務員に配転され、勤務態度不良を理由に同年5月に通常解雇をされた。
一審・二審とも解雇・配転とも権利濫用により無効とした。原告は解雇期間中に他の職について利益を得ており、中間利益の控除につき、その手順を明示したものとして実務上の参考になる例。
1、 支払われるべき賃金として、平均賃金の6割は労基法26条により控除できない。残りの4割について、時期的に対応できる中間利益の額を控除できる。中間利益が平均賃金の4割を超える場合は、平均賃金の基礎に算定されない賃金の全額について控除することができる。
2、 本件期間:11年5月から14年3月までの間で他で就労した期間は20ケ月でその収入は358万123円で、その期間に対応した支払われるべき賃金は480万2040円・期末手当は196万8836円である。(その他の期間分としての賃金・期末手当は124万8530円)
@ 平均賃金の6割:288万1224円は控除できないので、支払われるべき賃金。
A 4割:192万816円を収入358万123円から控除しても余りがある。
B 期末手当196万8836円から、Aで控除した余り:165万9307円控除して、残り30万9529円は支払うべき賃金。
その他の期間分124万8530円を合わせ、443万9283円が支払うべき賃金となる。先頭