放射線療法とは?

放射線と聞くと怖いイメージがあるかもしれませんが、全くそんなことは無く、あらゆる種類の癌治療で用いられている有効な治療法です。また乳がんは放射線に効きやすいがんのひとつです。放射線療法とはX線やガンマー線などを照射してがん細胞の増殖を抑えたり死滅させたりする治療法です。基本的には化学療法や内分泌療法が全身療法なのに対して放射線療法は手術療法と同じく局所療法です。つまり放射線を照射したその部分の治療です。

乳がんにおける放射線療法とは?

大きく分けて予防的照射治療的照射に分かれます。

予防的照射の代表的なものは、乳房温存術後に残ったおっぱいの再発(局所再発)を抑えるために施行する予防的照射があります。
また治療的照射の代表的なものは乳がんの転移巣に対する照射です。具体的には乳がんの脳転移、あるいは骨転移などに対する照射です。



1.      予防的照射
   ・乳房温存術後、残ったおっぱいに対する局所再発予防目的の照射 
   乳房切除術後(おっぱいを全部取る手術)の胸壁再発、おっぱい周囲
   の
リンパ節再発予防目的の   照射(特に腋下リンパ節転移が4個以上
   の進行乳がん症例
)

2.       治療的照射 
   ・乳がん転移巣への照射(特に骨転移脳転移
   局所進行乳癌に対する局所(おっぱい)とおっぱい周囲の領域
     (
癌のつながっている) リンパ節への照射
   ・局所再発乳がんに対する局所(おっぱい)とおっぱい周囲の領域
   
(癌のつながっている)リンパ節への照射

放射線療法は実際どのように行うのでしょうか?

患者さんにとって一番頻度の高い、乳房温存術後の予防的照射について述べていきます。

方法としては、全て外来通院で行えます。一回1.8から2Gy(グレイ)を一週間に5回、これを患側の乳房全体(全乳房照射)へ5週間23回から25回)照射して総照射量を46から50Gyとします。一回の照射時間は数分です。全乳房照射で肺や心臓への副作用が最小限になるよう接線方向に照射します。さらには局所再発の可能性の高い症例にはがんを切除した部分に5回から8回の追加照射(ブースト照射)を行う場合もあります。

具体的な手順
1)最初に放射線科外来を受診して診察を受けます。

2)
CTやX線位置決め装置を用いて実際に照射する部位を決めます。乳房温存手術後の放射線治療は乳房全体へ接線方向に斜め左右から照射し、出来るだけ心臓や肺に放射線が当たらないようにして行います。両側あるいは患側の腕を挙げた仰向けの状態で治療台に横たわります(図1、2)。正確に放射線照射をするために乳房と胸壁に無害なインクでマークします。

3)リニアック(直線加速器という放射線治療器)で放射線治療を開始します。

治療時間は一部位につき数分です。週5日の土日休みで約5週間がんばって休まず通院してください。


乳房温存手術後いつから放射線治療を始めれば良いのですか?

基本的には乳房温存手術後、傷が完全に治って患側の手が上に完全に挙がるようになれば、放射線治療を開始できます。目安は手術後2から4週間後ぐらいからです。手術後、化学療法を行わない場合は術後8週間に以内に開始しましょう。化学療法を行う場合は化学療法(抗がん剤治療など)をまず最初に行い、その後、放射線療法を行います。乳がんの予後を左右するのは遠隔転移(おっぱい以外の臓器への転移)なのでまず全身療法としての化学療法を行います。化学療法は抗がん剤の種類にもよりますが化学療法が終了するのに4から5ヶ月かかるので手術後から6ヶ月ほど経過してから放射線治療を開始する場合もあります。この場合でも6ヶ月間、放射線治療の開始が遅れても局所再発が増えるという科学的根拠はありません。

乳房温存手術後の放射線の効果は?

乳房温存手術後の放射線療法の目的は残ったおっぱいの再発(局所再発)を予防することです。欧米のデータでは生存率は変わりませんが局所再発を68%減少させるといわれています乳房温存療法とは乳房温存手術+放射線療法となっています。つまり乳房温存術後は放射線療法を行うことが標準療法となっています。ただし日本では放射線療法を省略している施設もあります。実際、データ上は乳房温存術後に放射線療法をしてもしなくても生存率に差がないならば、諸事情により放射線を省略できることもあります。実際、私の患者さんで画家のその患者さんは、「どうしても作品をこの期日までに提出しなければならないと、遠方で毎日5週間も絶対、通院できない」と、この場合は、よく乳房温存手術後に放射線を追加しないリスクを十分説明し、納得していただいた上で、放射線を省略しました。その代わり通常よりすこし大きく乳腺を切除しまいした。この患者さんのケースも、生存率に差がないと言う臨床データがあるから出来ることです。ただし、放射線療法を省略した場合は、乳房局所再発率が高いので標準療法ではないことを肝に銘じておいてください。

放射線治療中、日常生活で気をつけることは?

1)健康管理をしましょう。十分な睡眠と休息をとりましょう。
なぜなら、患者さんの中には、放射線療法によって疲れる方がいるからです。それと治療を始めだしたら休まず一気に治療を終わりきることが大事だからです。

2)入浴はかまいませんが患側のおっぱいをこすらないようにしましょう。治療中は患側には香料やデオドラント(体臭防止剤)や金属を含んだ石鹸は用いないでください。これらに含まれた金属は放射線治療と相互反応を示す可能性があるからです。

3)衣服に関してはブラジャーの使用はなるべく避け、患側への圧迫がなるべく少ない服を着用しましょう。


4)食事はいつも通りで問題ないです。


気になる乳房温存術後の放射線照射の副作用は?

比較的頻度の高い副作用としては、照射した乳房の発赤があります。これは日焼けに似ています。この症状は治療を始めて2週間程度から出現し治療を終了しても2週間程度は進行しますが、その後、必ずゆっくりとではありますが治っていきます。また乳房痛や乳房の硬さが増したり、汗を出す細胞が障害を受け発汗や皮脂分泌の低下も見られます。あと放射線治療を受ける患者さんに良く見られる症状としては疲労感です。治療期間も5週間にも及びますし、何もする気がなくなると言われる患者さんが多いです。また程度は1%と低いですが気をつけなければいけない重篤な副作用に放射線肺炎があります。治療後3から6ヶ月ぐらいで起こります。晩期の副作用として頻度は1%ぐらいですが肋骨骨折、心膜炎などがあります。

                                                                      
どのような患者さんが放射線治療が禁忌でしょうか?

1)   以前に乳房あるいはその周囲に放射線療法を受けたことのある方。
なぜなら、放射線は正常細胞にも障害を与えています。そのため一定量以上の放射線を照射すると正常細胞にも重大な障害を与えたり、死滅させたりするからです。

2)  妊娠中の方。
放射線の影響は胎児にも及ぼすから

3)   膠原病が活動期の方。
放射線を当てることで膠原病が悪化することがあるからです。

どんな時に転移性乳がんに対して放射線治療を行うのですか?

転移性乳がんに対する放射線療法は根治を目指すものではなく、症状を緩和してQOL(生活の質)を向上させることが主な目的です。放射線療法が行われるのは乳がんの骨転移脳転移の場合が多いです。

・骨転移の場合

がんが骨に転移すると、強い痛みや病的骨折が出現します。この疼痛や易骨折性に対して放射線療法は大変有効です。20Gy/5回〜30Gy/10回の分割照射が一般的です。

・脊椎骨への転移の場合

骨転移のうち、がんの転移が脊椎骨に発生し、その転移巣が大きくなって、脊髄を圧迫するようになると手足が動かなくなったり、しびれたり、排便排尿障害が出現します。このような症状が出れば一刻も早い治療が必要になります。なぜなら症状が固定すると治らないからです。通常は48時間以内にステロイドの投与、放射線治療の開始、場合によっては手術を行うと高い改善効果が期待できます。

脳転移の場合

脳には血液脳関門というバリアがあり、ほとんどの薬剤は脳に届きません。つまり抗がん剤治療もホルモン療法も脳転移に対しては無効になります。放射線療法は脳転移にも効果を発揮します。脳転移は症状が進行すると神経症状が出現するため、まず放射線療法を行います。脳転移に対する放射線療法は全脳照射(頭全体に放射線をかける事)が基本です。4個以下の脳転移例には手術あるいは定位手術的照射の併用が行われます。

・頚部リンパ節、鎖骨上リンパ節転移の場合

がんが頚部リンパ節や縦隔リンパ節に転移して、大きくなり静脈を圧迫して顔がはれたり(上大静脈症候群)、鎖骨上リンパ節に転移して腕の神経を圧迫して手がしびれたり麻痺したりした場合も放射線療法は大変有効です。