Himitu no heya

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


                                                                                                     an empty station   2001

 

 

 

 

或る一日の午後に

 

いつもそこにある巨大なガスタンクや四角い建物は

西に傾いた太陽に照らされて くっきりとした影をおとして浮かび上がり

突然 初めて見る物のように姿を現し始めた

その強靭さに目眩を起こし

後ろにいた何者かに手を取られ 謎の場所へ連れていかれそうになった 

 

遠くで子供の声が聞こえる

むかしにも聞いたことのある 頭を貫き空高く消えていく奇妙な声 

巨人を眠りから覚ます果てしない声

どうやら気付いてしまったようだ

──カーテンが閉まっている

その向こうには 乾いた明るい舞台があり

恐ろしいほどに澄み切った青空が何処までも続いている

今までに築き上げてきたものとは まったく無関係の場所

毎日の生活から断ち切られて ただ其処にぽっかりとあるだけ

私が後ろを向いている時に それは密かに開いているらしい

 

背後にとてつもない広がりを感じる

想像を絶する 計り知れない運命の力

それはキラキラとした輝きを帯びながら降りてきて 全てを呑み込む

何時の世にも 何処にいようとも──

 

 

 

 

 

 


    夜の会話

 

群青色の空に星が冷たく瞬き

海はインクを溶かしたように 深く暗く滑らかになった

境目に 一つ二つと小船が浮かぶ

そこから漏れる光は 氷のように冴々と

だんだん強く輝いて 波を伝って降りてきて

こちらに届きそうなほど 手をながぁーく伸ばしてきた

手をつなぐつもりかな                            

顔が無いから何を考えているのかわからない

ドキドキしてきた

こちらも手を出そうかどうしようか

迷っているうちに 辺りは白々と明るくなってきて

もう ホントかユメかわからなくなってしまった

 

 

 


とばり

 

11月の日暮れ 外は青と黒だけになった

大きい大きいケヤキの枝は 宇宙に届こうと網のように伸びていった

遠くで 人とも動物とも思えない歓声があがり

全てのものを貫いて 想像出来ない彼方まで聞こえてしまったらしい

辺りは深々冷えていく

昼間は 家や木だった物たちが ゆっくりと違う何かになっていく

もう少しで姿を現すだろう

 

その後 日はすっかり落ちてしまい その答えを教えてはくれない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


                                       

終わりのない旅

                                          2001

 

 

 

 

貨物列車

 

列車の窓から外を見ている私から もう一人の私が抜け出して

隣の貨物列車に乗ってしまった

レールはぐちゃぐちゃに絡まって 一体何処に通じているのかわからない

ガラスに手を当て 何も出来ない

列車はどんどん走ってしまう 彼は振り向いてもくれない

私達は別々の場所に連れて行かれてしまう

でも大丈夫だよ

レールはまた何処かで 一つになれると思うから きっとその時会えるから

本当に─? 

そうやって何人置いてきただろう 忘れたい自分も 忘れてはならない自分も

今頃みんな どうしているのだろう

それぞれに生きている世界を パズルのように組み合わせたら

どんな絵が出来上がるのだろう 

もし或る駅で出会ったら なにが話せるだろうか

忘れたい過去と 忘れたくない気持ちと

矛盾だらけの日々を 無表情を装って見ぬふりをしている

そうしているうちに パズルのピースはまた幾つも増えてしまった

もう完成する保障は無くなってしまった

 

そうして今日もまた 偶然居合わせた列車に乗り込み この身を委ねてしまう

でも今日の太陽はやさしい光で町を照らしている

 

 

 

 

       

五ェ門池

                                                                                 

桜やイチジクの木に囲まれて

小さな池は まだそこにある

橋は くねくね崩れ落ちて四方八方に伸び 途中で途切れたりしている

その末端に誰かが立っているのを時々見かけることがある

水面をのぞき込んでみる

空に一筋の雲がある

上も下も判らなくなった

飛び込んだら明日になる それとも遠い過去か 遠い未来か──

そうこうしているうちに 橋の板はバラバラに壊れて

ゆっくりと池一面に漂っていった

 

イチジクの実がパクリと割れた

 

板は カツン カツン とぶつかり合い

それぞれあちこちの方角を指して行く

さて どの板に乗ろうか?

選んだものによって貴方の行く世界が決まる

 

無数の風船が漂う

その一つに貴方がいる

水面に映りその数は増え続ける

そして それら全てを包む何かがあることに

貴方は果たして気付くだろうか─?

 

 

 

 

 

自転車にのって

 

友達と二人で自転車をこいだ

網の目のような畑道を

 

ある細い道に来ると

畑でキャベツをとっている 白い頭巾の婆さんが

皺の目だけをのぞかせて振り向いた

「この道は通ってはいけないよ」

仕方なくまた元の道に引き返し 重々しい瓦の古い屋敷を過ぎて

赤い椿の咲くなだらかな坂を下った

ガサリと音がした

植木の陰にちらりと男の姿が見えた

こちらに気付いているようだが 黙々と枝をおろしている

 

僕たちは目を合わせ 素早く坂を降りきると

大きな沼が現れた

枯れた松の化物が2本倒れかけていて

烏がまわりを飛び回っている

水面を覗くと 二人の神妙な顔がゆらゆらと映る

ちょろちょろとくすぐるような音

ドブくさい匂いが時々漂ってくる

へりに黒々と 夥しい数のおたまじゃくしが集まっていた

道には 誰かが捕まえてぶちまけたのが

ひからびて海苔のようにへばりついていた

 

水の中にぽかっと暗い穴がある

その奥はどんな道が続いているのか・・・?

もし入ることが出来るのなら

また誰かと会ったりするのかな

 

「この道は通ってはいけないよ」

 

バシャリと音がした

眼を上げると 大きな蛇が向こう岸の林へ

悠々と泳いで行くのが見えた

波紋が足元にまでやってきて 僕たちに

「帰れ」

と言っていた

 

二人は一度も振り向かずに夢中で自転車をこいだ──

 

 

 

 

 

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